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2004/03/17

出版と知のメディア論

 長谷川一『出版と知のメディア論 エディターシップの歴史と再生』(みすず書房, 2003)を読了。これが(いかに「全面的な改稿を施した」と著者が書いているにせよ)、修士論文だとはなんたることか。去年まで自分が書いていたのはなんだったのだ、という感じで、かなり落ち込む。特に文系で、これから、修士論文を書こうと思っている人は、読まない方がいいかも。変にプレッシャーになってしまうかもしれない。東京大学大学院情報学環・学際情報学府では、これが当たり前のレベルなんだろうか。おそるべし。
 まあ、それはさておき、本書は、いわゆる「人文書」の終焉を語りながら、新たな方向性をさぐる、という趣旨の一冊。そのために、学術出版の一つのモデルといわれている、米国を中心とする欧米の大学出版局の歴史と現状を分析し、さらに、電子出版の動向を押さえている。大学出版局の歴史の部分は、単純に栄枯盛衰の過程や、登場人物の思想や戦略が面白かったりするが、その一方で、学術書を商業ベースで刊行することの困難さそのものが浮き彫りにされていて、なんとも難しい気分にさせる。国内の大学出版局関係者は必読だろう。電子出版の動向の部分は、特に国内の先駆的な試みについての記述が興味深い。
 といいつつ、一番面白いのは、日本の「人文書」出版の歴史と現状を論じた部分だろう。純粋な学術論文ではなく、かといって、一般的な娯楽書でもない。そして、近年、その没落が多くの知識人によって嘆かれている「人文書」が持つ、独特の地位、というか、位置が、どのように成立したもので、それを支えてきたのは何だったのかが語られている(著者は、「人文書」を支え、そして「人文書」が支えているその構造全体を指して、「人文書」空間と呼んでいる)。結論としては、「人文書」空間を支えていた、教養主義とその下部構造であった農村型社会と学歴エリート主義が崩壊していった後に、その社会・文化構造の変化を捉えることなく、「人文書」復興を唱える、空回りする言葉だけが繰り返されている、という現状が浮き彫りにされていく。しかし、著者は絶望するのではなく、エディターシップの復権を唱える……のだが、最後の部分は、やや議論が抽象的になってしまっているかもしれない。
 むしろ、メル・プロジェクトのサブ・プロジェクトの一環として行われた「本作りとメディアリテラシー・プロジェクト」、オンデマンド出版のリキエスタ・プラス(むむ、独立したページはないのか? とりあえず、メル・プロジェクトのメールマガジン『メルの環』2003年2月号にリンクしておく)など、著者がその後関わったプロジェクトそのものが、本書の最終章の展開部になっているのかもしれない。
 それにしても、「人文書」の終わりを告げている本書自体は、完璧なまでに「人文書」として出版されているというのがなんともいえない。出版社は「人文書」の雄、みすず書房だし。それに、修士論文が出版につながった、ということについても、本書が今(比較的)売れる出版危機本の一種としての市場を持っているという判断が出版社側になかったとは考えにくい。いや、修士論文が出版されたことをねたんでいるわけではないのだが……。
 純粋な学術論文としてではなく、もう少し広がりを持った読者を対象とした「人文書」として、本書は成立している。そうした成立のしかた、というのは、今後変わっていかざるをえないのだ、ということを、踏まえた上で読むと、さらに味わい深い。
 とはいえ、「あとがき」を除けば、書きっぷりは「論文」なので、少々取っつきにくいかもしれない。その硬質さも含めて、「人文書」というイメージそのもの、という気がする。

(2004.03.19追記)
 bk1の新しいサイト(今のところブリーダー向けらしいので、リンクははらない方がいいのかな?)の機能を使って、書名からリンクをはってみた(書名のリンクから行くと、これまでのbk1とは違うところに連れていれるのでご注意)。Weblogを意識していて、トラックバックもできるらしい(のでやってみることに。さて)。

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コメント

 ところでobaさんは、bk1へのリンクは結局どちらに張ることにされたんでしょうか?3月のはbk1.jpのものがありましたけれど、10月はbk1.co.jpみたいですよね。
 自分はbk1メルマガもらっておきながら、ブリーダープログラムしか使っていなくて、bk1.jpは気がつきませんでした。
 使い勝手いかがでしょう。

 結局、bk1.jpにはトラックバックだけしておいて、リンクはbk1.co.jpにしてしまってます。bk1.jpで買い物しても、最終的にはbk1.co.jpでの処理になる、というのもありますし、bk1.co.jpの方がまだ速いので……。
 bk1.jpで知って、そのあと巡回先に加えたblogもいくつかあったりするので、結構広がりのある仕組みだと思います。ただ、もうちょっと安定的に使えるものになるといいのですが……。しばらくは様子を見ながら、でしょうか。

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