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2004/04/13

ユリイカ 2004年3月号 特集・論文作法

 『ユリイカ』2004年3月号(青土社)「特集・論文作法 お役に立ちます!」を(今ごろ)読了(あれ、bk1に在庫がない?)。既に押井守特集の4月号が店頭に並んでいるというのに。たぶん、押井守特集の方が売れるんだろうけれど、この3月号の特集の方が、好み。何となく、内容が「変」だし。
 特集冒頭の蓮實重彦インタビュー「零度の論文作法 感動の瀰漫と文脈の貧困化に逆らって」(聞き手・鈴木一誌)からして、インタビューのようで何か別のものになってしまっている。インタビュアーが、AというところでBと書いていますが、ということはCということではないですか、と訪ねると、蓮實重彦は、ほとんど全ての質問に対して、それは単にXというだけのことでしょう、ただYということはあるかもしれません、と切り捨てる。こうした(かみ合わない)やり取りが延々と続くのである。なるほど、読み手によるテクストの(深)読みというのは、書き手の意図とは関係がないのだ、ということを、恐ろしいほど思い知らされる一編。ある意味すごい。
 ちなみに、浅田彰に言及しているところだけ、妙に蓮實重彦が熱くなっているような気がするのは、これも深読みのしすぎか。ちなみに、蓮實重彦はここで、浅田彰の罪を「柄谷(行人)さんまでは、彼の書物が書きたい欲望の持ち主にとってのジェラシーの対象だったわけですけれども、浅田さんは、無用なジェラシーは持つな、無駄な努力はするな、分かるものは簡単に分かる、お前たち知的貧乏人は書くな、という話です」と表現している。なるほど、後の社会学者系評論家の果たす役割の先取りをしていたみたいなものか(違うかな?)。
 特集タイトルと整合性が(比較的)とれているのは、石原千秋「秘伝 人生論的論文執筆法」、渡部直己「それでも「優」を取りたい人のための五箇条の御託」、池田証寿「文字コードによって人名・題名・引用をいかに表記するか」、村上陽介「MLA方式による出典明示の技術」あたりか。実用的、あるいは、採点する側から見た忠告のようなものなので、学生は目を通しておくとよいかも。ちなみに、MLA方式というのは、参照する文献を注ではなく、著者名(主にファミリー・ネーム)で、本文中に表記してしまう、という方法。これは私もよいとは思うのだけれど、これを日本語の文献にどう適用するのか、という共通ルールがないのが問題、という気も。
 こうした実用系(でもないか?)に対して、小谷野敦「非「科学的」な人文社会科学」は、最近の文学研究の動向に対する愚痴が炸裂。ポスコロ(ポスト・コロニアリズム)、カルスタ(カルチュラル・スタディーズ)ばやりの昨今を嘆いてみせる。「まじめにやってほしいものだ」という結論がなんともいえない。
 小谷野敦に限らず、この特集全体として、ポスコロ、カルスタに対しては冷たい論者が多く、逆に言えば、そういう論文がそれだけはやっていて、そして、みんながうんざりしているのが、よくわかる構造になっている。要するに、そういう論文は書くな、ということか。
 例えば、佐藤泉「〈カルスタ〉の自己記憶・自己忘却」などは、やや遠回しながら、カルスタが行う偶像破壊が、もはやその「偶像」を誰も共有していない状況では、意味を成していないことを痛烈に指摘しつつ、1950年代の労働者サークルにおける文化活動がなぜ忘却されたのかという論を展開したりしている。
 増田聡「ロック論の書き方?」では、カルスタのおかげで注目を浴びているサブカルチャー研究ではあるものの、ロック論がいかに困難なものであるかが延々と語られることになる。『季刊・本とコンピュータ』2004年春号で、宮本大人がマンガ評論には渋谷陽一がいなかったということを問題として提示していたが、佐藤泉の議論を読んでいると将来的には、ロック評論には、マンガの分析言語を提示した夏目房之介のような存在がいなかった、と語られることになるかもしれない、いう気がしてくる。
 その他、長谷川一「棲みつくことと旅をすること 「論文」空間をめぐるメディア論」は、『出版と知のメディア論 エディターシップの歴史と再生』(みすず書房, 2003)のエッセンスを要領良くまとめたもの、という感じ。とりあえず、こっちを読んでしまうのがお勧めかもしれない。短いし、文章もあまり論文論文していないので読みやすい。
 あ、いかん。一番はちゃめちゃなのを忘れていた。高山宏「カタけりゃいいってもんじゃない アルス・アマトリア論文術」がめちゃくちゃ。全然論文を書く参考にはならない。高山宏が論文をどう書いたか、という思い出話が展開されたりするのだが、(相変わらず)話があっちこっちに飛びまくる。面白いけど。ただ、普通はこんなのは真似できませんって。学生の時にこれにかぶれたら、大変だろうなあ。図版として高山メモが紹介されたりしているので、ファンは必見かも。個人的には、ところどころ噴出する、東京都立大の人文系お取りつぶしに対する怒りが印象的だった。この問題については、渦中の研究者の本音の(?)発言が、意外に聞こえてこないだけに、貴重な一編かもれない。

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