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2004/04/30

横書き登場 日本語表記の近代

 屋名池誠『横書き登場 日本語表記の近代』(岩波書店岩波新書, 2003)を読了。『季刊・本とコンピュータ』2004年春号で、著者のインタビューを先に読んでしまったので、慌てて積読本を捜索した結果、無事発見されたもの。
 何というか、単純に、誰もやっていなかったことをやってのけるというのはすごい。著者は、右から左への横書きというのは一行一字の縦書きだ、という通説を確認しようとするところから出発して、近代日本における「書字方向」(縦か横か、右から左か、左から右か)の変遷を厖大な資料群を渉猟することで、実証的かつ理論的に語ってみせてくれる。巻末には、調査対象になったコレクションのリストがあって、全国の図書館、特殊コレクション、自筆原稿、マイクロ版集成などを駆使したことがわかる。圧巻。
 右から左に書く横書き(これを、「右横書き」という、とのこと)、というのは、日本に伝統的にあったものであるかのように思われているけれど、右横書きが存在したことを立証するためには、縦に二文字以上入る場合でも横方向に文字が並ぶ(縦二文字の縦書きにならない)という例が発見されなければならない。ところが、こうした例が存在するのは、幕末期になって以降であり、日本の文字を使いつつ、西洋風の雰囲気を出そうとした場合に使われ始めたことが実証的に語られてしまったりする。本書の中身は、一事が万事、こんな具合。
 戦前には左横書き(左から右へ書く横書き、つまり今の普通の横書きのこと)は、ほとんどなかったかのように思われているが、実際には、科学技術系の文献を中心にして、実務的な文書全般に広がりつつあった(が、戦中期には、右横書きこそ日本の伝統、という発想が強くなり、一時的に拡大が抑えられた)なんてことも、明らかにされてしまったりするし、さらに、戦後の左横書きの普及は、別にGHQや政府の圧力ではなく、民間の自主的な動きで広まった、という話もあったりする。
 とにかく、トリビア的な楽しみに満ちていて、日本の「伝統」と思われていることの多くが、いかに西洋との接触によって生まれてきたものなのかを確認することができてしまう一冊。簡単に「伝統」や「通説」を鵜呑みにしてはいかんということを改めて痛感させられる。やっばり、同時代資料は重要だなあ。
 西洋文化の衝撃を日本語はどのように受け止めて変化してきたのか、という論考としても読める仕組みになっているので、日本語を通じた日本文化論をやりたい人も読んでおいたほうがよいかも。

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