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2004/09/06

図書館文化史研究 no.21

 日本図書館文化史研究会の機関誌、『図書館文化史研究』no.21 (日外アソシエーツ, 2004)が届いたので読んでみる。
 田村俊作「基調講演 レファレンスサービスの連続性と断絶(日本図書館文化史研究会2003年度研究集会・総会)」は、日本の図書館におけるレファレンスサービスの歴史区分を試みるもの。講演という性格もあって、問題提起のための試案、という性格が強いものの、一つの提案として、突っ込んだ議論の対象にする意味はありそう。『市民の図書館』を巡って、「読書案内」をレファレンスサービスの側に位置づけるのか、貸出の方に位置づけるのか、という議論があったという話などもあって、色々ヒントが含まれていそうな様子。
 といいつつ、今回の目玉は論文の方ではなかろうか。
 高梨章「ライヴァルは百貨店 1912年の図書館」は、1912年前後に、三越などの百貨店の文化事業に影響を受けた展示会などの新たなサービスと、修養教育とは異なる趣味と娯楽という新たな領域への可能性を探る動きが、図書館界にあったこと論じる。文体まで含めて高山宏の影響丸出しだったりするのはご愛嬌だが、百貨店という当時最先端の文化装置が、図書館にどのような共振を引き起こしたのか、という視点はべらぼうに面白い。もちろん、図書館における「趣味」と「娯楽」はこの後、敗北を重ね、「通俗教育」が「社会教育」に姿を変えていく過程で、様々な可能性を失って貧弱なものになっていく、という話になるのだが、それでも、この一時期に示された可能性の豊かさは、(限界はあったにせよ)再評価するに足る、という気分にさせてくれる。続編希望。
 もう一つの論文、鈴木宏宗「国立国会図書館長としての金森徳次郎」は、日本国憲法制定に関わったことで知られる金森徳次郎のその後、つまり、初代国立国会図書館長としての業績を追ったもの。衆議院・参議院の事務総長経験者以外で国立国会図書館長となった唯一の人物である金森の活躍に焦点を当てていること自体が珍しいが、さらに画期的なのは「春秋会事件」を正面から扱っている点。国立国会図書館の外郭団体であった春秋会の成立から、その活動が国会で問題になり、解散となるまでの経緯が語られている(事件の余波を受けて金森も館長を辞任し、その約一月半後に死去)。国立国会図書館の正史からはほぼ抹殺された存在になっている春秋会だけに、この論文は日本の国立図書館史を語る際には欠かせないものになりそう。

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» [本]百貨店と図書館 [キリカラヤ]
高梨章「ライヴァルは百貨店 1912年の図書館」『図書館文化史研究』no.21 (日外アソシエーツ, 2004) 百貨店って図書館のライバルだったんですか…。おもしろそう。 [続きを読む]

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