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2005/05/02

オレ様化する子どもたち

 諏訪哲二『オレ様化する子どもたち』(中央公論新社中公新書ラクレ, 2005)を読了。
 現場の教師の視点から、生徒の変化を語り、世の教育論をぶった切る、という一冊。
 親も子どもも、学校で教育を受けるのは一回限りの経験であるのに対して、教師は通時的に状況を見ることができる。その視点からみると、かつては共同体的な規範をある程度身に付けた状態で子どもが学校に入ってきていたのが、80年代半ば以降、市場的な規範を先に身に付けて学校に入ってくるようになった、というのが、本書の中心的な主張、という感じ。
 市場における規範というのは、等価交換が基本。生徒が対等の立場で等価交換の関係を先生に要求しだしたら、旧来の先生−生徒関係は、崩壊せざるをえない。これでは、学級崩壊もある意味当然、という話になる。
 さて、この見方からすると、学校がおかしいから子どもがおかしくなるのだ、という意見に大しては、ちょっと待て、となるのは当然。社会の変化が、子どもと学校に反映しているのであって、その逆ではない、というわけだ。言われてみれば、そりゃまあそうか、という話なのだが、結構盲点。かくして、宮台真司・和田秀樹・上野千鶴子といった人たちによる、学校から社会へ、という視点の教育論がいかに的外れなものかが、辛口に論じられることになる。
 では、どうすればいいのか、ということについて、明確な対策が提示されているわけではない(あったら、学校の現場は苦労しない、ということだろう)のだけれど、著者は、知的にも精神的にも未成熟な状態のまま、市場における「個」が先に確立してしまった子供たちに、近代的な知と個人としてのあり方を埋め込んでいくことが必要だ、と困難を承知で語ってみせている。
 しかし、近代化のプログラムの果てにたどりついた地点がこれでは、なんとも救いがないなあ。
 と思ったが、よく考えると、80年代半ばの校内暴力で荒れた時代が変わり目だった、ってことは、私もその世代なのであった。うーむ。なんだか、手遅れなんじゃないか、という気も……。
 ちなみに、内田樹『先生はえらい』(筑摩書房ちくまプリマー新書, 2005)と、結果として呼応しあう内容になっているので、両方を併せて読むのがお勧め。
 ここ(『オレ様化…』と『先生はえらい』)で、問題になっていることは、専門家に対する尊敬が失われた結果として、質が落ちるのか、質が落ちた結果、尊敬が失われるのか、という議論ともなんとなく重なる気がする。教師の質が低下した(といわれる)、とか、三面記事に教師が登場、というのが増えている(ような気がする)という状況において、教師という職業の持つ社会的な位置づけの回復(あるいは変更)が必要、と考えるのか、教師自身を変革しなければならない、と考えるのか。
 どっちかだけ、ということではなくて、「専門性」について考える時には、両方の視点が必要ということか。
 ただ、本書で指摘されるように、市場が他の社会的な要素よりも圧倒的に優越してきているというのがあたっているとすれば、社会において尊敬されるのはマネーゲームの勝者だけ、ということになりかねない。そうなってしまったとき、そこに「専門性」が生き残る余地はどれだけあるのだろう。うーむ。

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コメント

こんばんは。

私も『先生はえらい』を読みました。その時は
曖昧な印象だったのですが、こちらの記事を
読んで、先生は偉くなるべきではないかなぁ...
と思いました。

共同体的な規範から市場的な規範(=等価交
換)に価値観が移っているのだとするならば、
先生だって生徒やその親に、勉強教えてあ
げることの見返りを求めてもいいのではない
かなぁ...と。

何でもなぁなぁで許されてきた社会じゃない
んだぞっ!と開き直るくらいの強さがないと、
今の時代、先生は勤まらないのかもしれま
せん...

lysanderさん、コメント、ありがとうございます。

仕事に対する意気込みと社会的尊敬の度合い、というのは、ある程度関連するような気がします。
その意味では、教師という職業の社会的な地位については、もうちょっと高さを戻してもいいような。

ただ、そこにあぐらをかいてしまったりする人もいるので、単純にはいかないんでしょうね。他の専門職も、たぶん、同じ問題をかかえているんじゃないかと思います。

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諏訪 哲二 オレ様化する子どもたち 怖ェ、凄ェ怖いよお~。 ヘタなホラー映画やホラー小説より怖い。ガクガクブルブル…。 1980年代中葉から、 日本には変な子供、若者が大量に目に付くようになった。 一言で言えば、誇大妄想狂のキ○ガイ。 幼児の未熟な... [続きを読む]

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