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2005/09/23

図書館文化史研究会 2005年度研究集会

 図書館文化史研究会の2005年度研究集会が、2005年9月17日・18日の二日間、日本図書館協会会館で開催された。
 一日目はシンポジウム「図書館用品 その保存と活用」。

(1)竹内悊「図書館用品の標準化 図書館協力への展望のもとで」
(2)木原祐輔「歴史的図書館用品の調査研究」
(3)小川徹「明治期、図書館用品の欧米からの受け入れと工夫の様子、その一端」

という報告三本立て。
 ……の前に、CIE映画『格子なき図書館』のビデオ上映もあり。ただし、どうも抜粋版で、フィルムが残されていた新潟県立図書館に関連する部分だけを編集したものではないか、とのこと。戦後初期の段階で、視聴覚資料の重視や、児童サービスの重要性の指摘などが行われていたんだなあ、といった具合でなかなか興味深い。といいつつ、辞書体カード目録(著者名、書名、件名を混配した目録)が使われている情景を初めて映像で見たのが、個人的には収穫だったり。
 で、本題のシンポジウムへ。
 (1)は図書館用品の標準化を、図書館活動全般にわたる交流と標準化と絡めつつ論じる、という趣旨だったのだと思うのだけれど、近代以前の図書館的活動(「持ち寄り・まとめ・分け合い」)から語り起こしたこともあって、若干、焦点がぼやけてしまったか。ALAのLibrary Supplies Committee(図書館用品委員会)が、1876年に事務局長Deweyの下で発足し、1879年に図書館用品の専門企業であるLibrary Bureauとなって独立する、といった話や、Deweyが英語のつづり方改革や、メートル法導入に熱心だったといったエピソードが結構楽しかったり。
 (2)はキハラ株式会社が、日本図書館協会からの委嘱を受けて行なっている、歴史的図書館用品の調査・収集事業の現状を、社長御自ら報告したもの。各地の図書館に辛うじて残されている、戦前の図書館用品を記録し、場合によっては収集する、といった活動が地道に続けられている。キハラの社員のみなさんが、営業活動の合間にやっているとか……大変である。
 (3)は予稿集の原稿はタイトル通りなのに、何故か実際の話は本筋とは違うところに入り込んでしまったような。佐野友三郎が赴任して以降の秋田県立図書館規則の改正の話や、今でいう「音読」が「誦読」と呼ばれていたらしき話とか、話としては面白かったのだけれど、図書館用品の話はどこに……。

 二日目は発表四本立て。発表者とタイトルは次の通り。

(1)中山愛理「メアリー・レミスト・ティッコム ブックモビル(移動図書館)のパイオニア」
(2)米井勝一郎「華中鉄道図書館 森清(もり・きよし)の上海時代」
(3)木本幸子「情報検索のための道具・機器の記録化」
(4)高倉一紀「幕末公開文庫の蔵書構築 伊勢“射和文庫”の事例から」

 (1)は、米国におけるブックモビルの先駆者、メアリー・レミスト・ティッコム(Mary Lemist Titcomb, 1857-1932)の事跡を、特に馬車(後に自動車)を用いた移動図書館活動を展開し、その普及に努めたメリーランド州のワシントン・カウンティ・フリー・ライブラリーの図書館長を勤めていた時代を中心にまとめたもの。二次文献だけに頼るのではなく、その図書館に残されている当時の書館や文書類を調査していて、論文にまとまったら、なかなか面白そうな感じ。
 それにしても、この時代に女性図書館長がいたということ自体にちょっと驚いてしまった。しかも、ALAの副会長も勤めたとのこと。例外だったのか、他にもそういう人がいたのか、聞きそびれてしまったなあ。その他、佐野友三郎と接触があったとか、カーネギーの支援によって馬車が入手できたとか、いろんなエピソードがあり。
 (2)は、NDCの創始者(という書き方でいいのかな?)として知られる森清(筆名の「もり・きよし」の方がよく知られているような)の、戦中の活動を追ったもの。上海の日本近代科学図書館を辞めた(森を上海に呼び寄せた鈴木賢祐もその前に辞めている。人間関係が結構最悪の状況だったとか)後、1939年に森が移ったのが、華中鉄道株式会社(華鉄)の図書館(総務部調査課の一組織だったとのこと)。華鉄は日本と、中国(といっても日本側の傀儡政権)との合併会社で、華中地域の鉄道交通の復興を目的として設立された一種の国策会社。満鉄と似ていなくもないが、先行研究はあんまりなくて、まだその実態はよくわからない部分も多いらしい。
 で、森は、この華鉄の図書館についてほぼ全権を任されたらしく、日中戦争によって散逸した鉄道関係資料の収集、地方誌の収集、図書館(バラック造りだったらしいが)の建設と開館、巡回文庫の実施、日本図書目録法案(青年図書館員連盟による日本目録規則の原形)を適用した蔵書目録の編纂など、日本の敗戦によって中国側に事業を引き渡すまでの6年強の間に、活発な活動を行なったとのこと。本人の回想などを見ても、この時代の経験は、その後の森にとって非常に重要な位置を占めていたのではないか、というのが、発表の結論だった。
 いろいろと興味深い話が含まれていたのだけれど、例えば、戦後、引き継ぎのために留用として上海に一時留まった森が、図書館を引継いだ相手が、米国に留学して図書館学を修めた一人の専門職員だったことから、その後、図書館員は専門職である必要性を痛感した、というエピソードが印象的だったり。
 (3)は大妻女子大学情報の科学研究室が制作した、情報検索の歴史に関する教材用映像について、その目的や企画意図、使用した機器類の収集やシナリオ作成などについて、実際に制作されたビデオの上映を含めて報告したもの。8インチのフロッピーディスクドライブが、どうしても見つからなくて秋葉原のジャンク屋で買ったとか、そんなエピソードが泣かせる。続編の計画もあるとのことなので、古い電子機器が手元に残っていたら、連絡してほしい、とのこと。あ、でも電子メールは教員紹介ページにも出てないのか。それなのにここに書くのもなんだなあ。
 (4)は、幕末伊勢で、個人収集の文庫として例外的に、地域への公開を行なっていた、射和文庫(いざわぶんこ)の蔵書構成について、射和文庫を設立した竹川竹斎に書物を寄贈した親族側の文書(新発見らしい)から光を当てて行く、といった趣向。
 江戸時代後期に現れてきた、新しい蔵書家である商人層の好事家たちによって、書物そのものや、書物に関する情報の交換が活発化していく過程の中で、さらに一歩踏み込んで同好の士の間でのやり取りという枠を取り払ったのが、竹川竹斎ではないか、といった視点が新鮮。近代公共図書館の源流をそこに見てしまいがちな、図書館史の枠組み設定を(ちょっと遠回しに)批判しつつ、近世文庫の魅力を熱く語っていて、刺激的だったのだけれど、その分、本題について論じる時間が少なくなってしまったような気も。

 おそらく、初日の分は、テープ起こしされて、『図書館文化史研究』に掲載されてるのだと思うのだけれど、予稿集なしで、しゃべったことだけまとめても、何が何やらわからなくなるような……。ちょっとそこが不安だったり。
 ちなみに、会場が日本図書館協会会館だったので、お昼などには書籍の販売もあり。もり・きよし『司書55年の思い出』(もり・きよし氏を偲ぶ会, 1991)や、山口県図書館協会『初代館長佐野友三郎氏の業績』(山口県図書館協会, 1983. 1943年刊の覆刻)が、新刊として手に入ってしまって、ちょっとホクホク。でも、図書館ハンドブックは買おうかと思いつつ結局買ってないなあ。さて、どうしよう。

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コメント

obaさ~ん。「悊」の字がうまく出せなくて困っています。知恵を貸してください。元原稿のテキストファイルでは大丈夫なのに、ココログに投稿する時点でおかしくなっちゃうんです。こちらでは正常に表示されてるので、何かコツでもあるんかなとコメント入れさせていただくことにした次第です。

使用する言語を「Japanese(UTF-8)」にすると出るようになると思います(多分)。

使用する言語はプロフィールの設定で変更します(しばらく探し回ってしまいました。分かりにくい……)。

http://help.cocolog-nifty.com/help/2004/03/post_73.html

を参照してくださいませ。

ただし、

http://help.cocolog-nifty.com/help/2005/04/200547_1cff.html

を見ると、途中で文字コードを変更すると文字化けする障害があったようです。直っているみたいですが、ご注意を。

 ご助言、ありがとうございました。

 デフォルトではUTF-8ですが、何か理由があってShift-JISに変えたんですよね。確か、自分が使っているO'sEditor2でこの文字コードが使えないので、せっかくバックアップをダウンロードしても、このtxtファイルが化けまくっちゃうんですよ。
 今回、念には念を入れてバックアップを取って、件の項目を変更。今のところはまだ不具合はないように見えます。バックアップも、htm形式での出力に変更されていました。
 ただ、txtならブラウザで開いてコピー&ペーストでエディタに貼り直せば変換できてしまうところ、htmですとなおのこと、エディタでいじりたいときに困っちゃいますね。実際に開いてみたら、化けまくってました。自分の書いたものをオフライン・ローカルで読んだりするのに便利は便利なんで…。まあ、いまはどこにもブラウザはあるわけだから、HTMLエディタをわざわざ準備しなくてもいいのか。

 ヘルプまで見ていただいて、感謝しております。

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