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2005/09/04

学術書という虚喝(こけおどし)に瞞されるな

 書物奉行さんの「書物蔵」のエントリー「谷沢永一氏が図書館学を全否定(^-^;)」を読んで、何やら楽しそうだったので、谷沢永一「学術書という虚喝に瞞されるな」『Will』通巻10号(2005年10月)p.88-91. を読んでみた。
 内容については、書物奉行さんが前述のエントリーで要約されているとおり。特に付け加えることはない。
 ただ、谷沢先生のこの文章だけを読むと、自然科学分野で「発表された論文は直ちに世界の学者すべてに読まれる」(これって本当は、英語で、コア・ジャーナルに発表すれば、という限定付きのはずなのだけれど)といったことを可能にしているシステムについて、若干認識が足りないような気もしてしまう(他で何か書いているかもしれないが……)。
 Web of Scienceや、Chemical Abstractsなどの抄録索引データベースによって、世界中で公表される論文が分野やキーワードによって検索することが可能で、しかも、読みたい論文を見つけたらScience Directのような電子ジャーナルでたちどころに読むことができる、というのは、それを可能にする宏大な市場があるからなのだけれど、そのことが、この谷沢先生の小文では隠されてしまっている。英語の論文を読み書きする多数の研究者と、その研究者の研究環境を整えるために、多額の契約予算をつぎ込んで、データベース・電子ジャーナルを導入している所属機関(の、図書館・情報センター)があって、はじめて、自然科学の論文が読まれる環境が商業的に成り立っている。
 一方で、ほとんど日本国内にしか市場がなく、しかも、自然科学系に比べれば、研究環境に投入できる予算の乏しい人文社会系において、学界のみで完結する市場はえらく小さいものになってしまう。そこを補う形で、「人文書」という学術研究機関の外側にいる人たちが買い支えてくれる市場を作り出すことで、学術出版が商売として成り立つような仕組みが維持されていた……というのは、長谷川一『出版と知のメディア論 エディターシップの歴史と再生』(みすず書房, 2003)の受け売りなんだけど。
 が、その人文書というシステムでは、これまでの文系学術出版が支えられなくなってきてしまった今、国に頼る、というモデルがよいのかどうかは、もう少し慎重に考えるべきことかもしれない。でも、ひつじ書房(「房主の日誌」は図書館屋はチェックしとかないと)とか、岩田書院(「新刊ニュースの裏だより」が赤裸々ですばらしい)とかは、税金で多少のサポートをしても、罰は当たらないような気もするなあ。
 文科系の学会誌なんて、雑誌の売り上げだけで黒字になるわけがないんだから(偏見?)、公的助成や単行本との抱き合わせ(?)出版の可能性を除いてしまうと、会員の会費で全額まかなうか、オープン・アクセスの経済モデルみたいに論文を書いた人が出版費用も負担する、という経済モデルしかなくなってしまうんじゃなかろうか。ただ、人文系の研究費の状況を考えると、短期的にはなんとかなるかもしれないけれど、中長期的にはもたないんじゃないかなあ。かといって、大学図書館も、予算削減圧力が高まっている以上、使われる頻度の少ない雑誌は切っていくしかないだろうし、図書館が買い支えるといったモデルも、ちょっと考えにくい。こう考えていくと、谷沢先生の書かれていることは、経済的な要素を考えていない空論に見えてしまうんだけど……。
 まあ、かといって、「文字・活字文化振興法」があれでいいのか、というと、ちょっと考え込んでしまう。うーむ。
 あれ? そういえば、図書館学の話がどっかいってしまった。
 前述の「書物蔵」のエントリーで書かれているとおり、

図書館学は図書館実務にはほとんど影響力がない

から、まあ、いいか(いや、よくないって)。それにしても、
文系でも歴史学なんかはきちんと先行文献をみてるけど,どこの分野とは言いませんが(って言ってるもドーゼンか)他の分野はぜんぜんいい加減だからねぇ

という書物奉行さんの一言は耳が痛い。確かに、資料集ですら出典が書いていなかったりするしなあ。
 あと、全然関係ないけれど、谷沢先生が叩いている「日本近代文学館専務理事」って誰のことなんだろう……と思ったら、日本近代文学館に専務理事って一人しかいないのか。名指し同然とは。

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