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2005/12/12

満州と自民党

 これも読み終わってから若干時間がたってしまった一冊。
 小林英夫『満州と自民党』(新潮社新潮新書, 2005)は、岸信介の満洲国における経験と人脈が、戦後においても大きな影響力を持ったことを論じている。ちなみに、岸は短期間ではあったが満洲国政府高官を歴任し、特に経済政策において大きな役割を果たしたことで知られている。そして、日本本国に戻ってからは、戦時中の統制経済運営の中心であった。単に60年安保の時の「悪役」ってだけじゃあないのだ。
 本書のポイントは、戦前・戦中と戦後を連続したものとして記述しているところだろう。戦犯裁判や公職追放などで一時的な切れ目はあるものの、戦前の指導者層は、終戦時に比較的若かった世代(岸もその一人)を中心に、米国による占領の終了とともに表舞台に復帰し、戦後日本のリーダーとして時代を引っ張っていった。著者は、そのことを、岸信介とその周辺の人物たちを中心に明らかにしている。
 特に、統制色の強い経済政策で乗り切ろうとしていた戦後の経済的な混乱期にその傾向が強い、という指摘がなるほど、という感じ。満洲国→戦時期日本→戦後初期の日本、という形で、統制経済を担う人脈とノウハウが脈々とつながり続けていて、こうした築かれた経済的基礎の上に、高度成長が実現していく、という話の展開には、思わず納得してしまう。
 政治的には、自民党の成立に岸が果たした役割を検証しつつ、短期間で首相となるまでには、満洲人脈という背景が大きな役割を果たしていたことも論じている。自民党長期安定政権を支える基盤は、政治、経済の両面で、岸信介と満州人脈なくして成立しえなかったのではないか、というわけ(タイトルの由来はここに)。
 このあたり、現在の自民党の政策と比較しながら読むのもまた一興かと。
 植民地一般にまでは議論が展開されていかないものの(若干の示唆はあり)、戦後につながる人材を育てた場としての旧植民地という評価の難しい問題を、分かりやすく提示した一冊。ただ、戦前の植民地化政策の単純な礼賛に使おうと思えば使えてしまう話ではあるので、今後、妙な形で利用されないといいなあという気も。

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コメント

初めまして。
これ、知られざる重要な問題ですよね。満州国を牛耳ってた松岡洋右・鮎川義助・岸信介の「3スケ」は、叔父・甥・甥の長州ファミリー。いま長州閥の主拠点は自民党「森派」で、森の「番頭」コイズミが人気首相で、「長州ロイヤル・ファミリーのプリンス」安部晋三が後継候補なんだから、日本もまるっきり閥族政治のまんまです。かくも明白な事実が多くの人に意識されてないことは、たいへん困ったことだと思います。

弓木さん、初めまして。

実は薩長閥問題なのではないか、ということは、「萬晩報」の

園田義明「縄文・弥生のハイブリッドシステムを忘れるな」
http://www.yorozubp.com/0506/050619.htm

などでも指摘されていますが、案外こうした人脈史的な視点は、有効な気がしています(やりすぎると陰謀史観になりかねない危険もあるかもしれませんが)。案外、明治は遠くになってないんですよね。
もうちょっと、そういう事が認識されるとよいのですが。

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