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2007/11/07

グアムと日本人 戦争を埋立てた楽園

 最近読んだ本では、山口誠『グアムと日本人 戦争を埋立てた楽園』岩波書店, 2007.(岩波新書)が印象に残っている。
 グアムといえば、比較的近くて安いリゾート天国としてしか、認識することができない。少なくとも他の姿は、メディアには登場しない。
 実は、太平洋戦争時の激戦地であったことなんて、はっきりいって、私自身もほぼ完璧に忘れていた。戦後28年間、日本兵としてジャングルをさまよったあの「横井さん」が「発見」されたのも、グアムだったというのに(実は本書を読んで、初めてそれを認識した私である)。
 しかも、グアムは一時、日本領でもあった。日米開戦直後に、日本軍は米国領であったグアムを占領し、「大宮島」としていた。植民地だったわけだ。当然ながら(あまり大きくはなかったようだが)、神社もあった。
 本書は、日米戦時のこうした記憶が、どのようにして日本人に忘却され、そして、私のように「忘れたことさえ忘れた」状態に至ったのかを、グアムの戦後史(と日本の観光史)をたどりながら論じる一冊である。
 グアムの日本人向け観光地化が、現地の意向とはほぼ無関係に推進された話や、宮崎県がメッカだった新婚旅行先が海外に広がっていった際に観光地としての地盤が築かれた、という話も興味深いが、より印象的なのが、繁栄する観光地の影で、米国の統治下で、米軍基地と観光に経済的に依存し、住民は米国の2級市民扱い(例えば、大統領選挙に参加することができない)、医療や社会インフラもぼろぼろで、米本国への人口流出と、フィリピンからの出稼ぎによる人口流入が止まらず、という、米国の植民地としての姿である。
 ということは、日本からの観光客は、米国の植民地に作られた、日本人向けの仮想リゾート地で楽しんでいることになる。沖縄が微妙に重なって見えるのは私だけか。
 もう一つ、台風で建物を失い、再建の目処が立たずにショッピングセンターの一角に間借りしているというグアム博物館の現状も強烈だ。観光地のインフラ整備が優先される結果、地元の文化機関への投資は、ひたすら先送りされているらしい。
 もちろん、著者はただ現状を嘆いているだけではない。本書は、リゾート地を越えた先にある、もう一つのグアムへの案内書でもある。巻末には、ほんの数ページだけれど、「もう一つのグアム・ガイド」が収録されている。歴史や文化への目配りを失い、買い物情報に全面的に占領されつつある(と本書で分析されている)既存の旅行ガイドブックへのささやかな、けれど、強烈な抵抗と読むこともできるだろう。
 グアムへは行ったことはないけれど、もしも行ったら、きっと(例えそれがヴァーチャルなものでしかないと知っていたとしても)リゾート気分を満喫してしまうような気がする。それでも、そんな機会があったら、必ず本書をカバンに入れていこう。そして、ビーチで朽ちかけたトーチカを眺めるのだ。

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