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2014/04/20

坂井田夕起子『誰も知らない『西遊記』 玄奘三蔵の遺骨をめぐる東アジア戦後史』 龍渓書舎, 2013

 1942年、南京を占領していた日本軍の一部隊によって、西遊記の三蔵法師のモデルとして知られる、玄奘の遺骨が発見される。そこから中国、日本、台湾を股にかけた、新たな玄奘の旅が始まった。汪兆銘政権による玄奘塔再建や日本占領地や日本への分骨、さらに戦後の日本の仏教界や、日中台の国際関係の中で翻弄される玄奘の遺骨…。様々な運命をたどっていく遺骨の行方と、それに関わった人々の行動を、日中台の新聞や、公文書(档案)、関係者へのインタビューにより丹念に辿ることで解き明かしていく……
 といった感じの一冊。文句なしに面白かった。傑作だと思う。
 内容紹介は、著者(@qima3 https://twitter.com/qima3 )ご自身のページ http://sakaiday.web.fc2.com/ が充実しているので、まずはそちらを。序章の試し読みもできる。
 装幀はソフトカバーだが、注や索引も完備していて、学術的検討に堪えうるだけの内容を詰め込みながら、かつ、一般書としての読みやすさにも配慮されている。読物としてのバランス感覚も見事だし、とにかく、内容が面白すぎ。国際情勢の影響を受けながら、宗教遺物が文化的・政治的資源として、いかに求められ、活用され、そして、忘れられていくのか、興味深いモデルケースとして読むことができる。東アジア近代史や、近代仏教史に関心のある人はもちろんだけど、文化資源系のみなさんにもお勧め。
 個人的に特に興味深かったのが、水野梅暁(1877-1949)が玄奘の遺骨の日本への分骨や、顕彰活動に深く関わっていたこと。水野梅暁は、私にとっては、『滿洲國立圖書館の保有せる文化的資料と其の價値』 http://id.ndl.go.jp/bib/024342793 とかを書いたりしていた人で、戦前・戦中期に仏教系中国通文化人として色々暗躍(?)してた、という印象だったのだけど、玄奘の遺骨に関わってこんなに大活躍していたとは。『水野梅暁追懐録』 http://id.ndl.go.jp/bib/000001244281 読み返したくなってきたけど、持ってない…。
 あと、驚いたのが、玄奘の遺骨が、関東では埼玉県内の寺院にある(しかも二ヶ所も!)ということ。これはその内、見に行かねばなるまい。いや、遺骨がそのまま見られるわけではないので、どう顕彰されているのかを見る、という意味ですが。他には、兵庫や大阪、有名どころでは、奈良の薬師寺にもあるんだけど、全く意識してなかったなあ……。不明を恥じるばかり。寺院に行くと、近世以前の歴史にばかり目が行きがちだったけど、近代も面白い、ということがわかったという意味でも収穫だった。
 いやー、良いものを読ませていただきました。

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コメント

ご紹介をありがとうございます。著者の願いを余すところなく汲み取っていただいたようなご紹介に感激しています。

私は、かつては中国仏教史をかじった者です。
この件を最初に知ったのは、『支那仏教史学』という雑誌中の紹介記事を通してであったと記憶しますし、各地の分骨の話も興味を持っていました。それに、私が研究室にいた当時は、お元気であった先生の先生、この分野の大家の先生も、当時、中国に滞在しておられ、直接、発見現場等を調査されたようなことを漏れ聞いておりました。
舎利信仰とも関連するのだと思いますが、唐代の高僧玄奘の遺骨に対する信仰というのは、ある意味、大変興味深いことだと感じていました。ただ、近現代は詳しくなかったりで、それ以上のことができなかったのが残念ですが、今回、このようにまとめて紹介された事は、大変喜ばしく感じております。
同時代のこととしては、栴檀像(画像?)やチベット蔵経のことなども、関心がありました。当時の政治情勢に翻弄されたものと想像しますが、資料が断片的で、こちらに関与したと思われる寺本婉雅に直接関係する大学に居り、チベット史系の先輩もいて直接きいたりしたのですが、よく分からない、まだ資料が整理されていない、という事で、詳細を見極めることができていない状況でした。
どの場合にしても、こういった信仰をともなった文物は、政治的外交的に利用されるケースがあったようです。

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