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2018/03/27

泉屋博古館分館(六本木)「生誕140年記念特別展 木島櫻谷 PartⅠ 近代動物画の冒険」

先日、泉屋博古館分館「生誕140年記念特別展 木島櫻谷 PartⅠ 近代動物画の冒険」(2018年2月24日〜4月8日)に行ってきた。六本木の方の泉屋博古館 https://www.sen-oku.or.jp/tokyo/index.html である。

木島櫻谷(このしま・おうこく,1877-1938)については、丸善・丸の内本店で開催された、第29回慶應義塾図書館貴重書展示会「古文書コレクションの源流探検 -反町十郎、反町茂雄、木島誠三、木島櫻谷、そして…」(2017年10月4日〜10月10日)で、現在は慶應義塾大学所蔵となっている反町文書の一部を成している、木島誠三による古文書コレクション構築のパトロンだったと推定されていたことと、同貴重書展のギャラリートークで、木島櫻谷旧蔵の江戸漢詩文コレクションが現在も櫻谷旧邸に未整理のまま残されている、という話を聞いたことで強く印象に残っていた。

実は、過去のツイートを確認してみたら、泉屋博古館分館の2016年の展示、「住友春翠生誕150年記念特別展 バロン住友の美的生活 ―美の夢は終わらない。 第2部 数寄者住友春翠 ―和の美を愉しむ」(2016年6月4日~8月5日)でも、住友春翠が、現在の大阪市立美術館の敷地にあった茶臼山本邸のために櫻谷に描かせた大作屏風を見て、印象に残ったことをメモしていたのだけど、検索してみるまですっかり忘れていた。

外部記憶は大事だなあ。なお、茶臼山本邸のために描かれた大作屏風は、4月14日からの櫻谷展Part II 「木島櫻谷の「四季連作屏風」+近代花鳥図屏風尽し」で展示されるようなので、又も泉屋博古館分館に迷わずゴーである。

さらに言うと、今回の櫻谷展のパネルに、平安読書室の山本渓愚(章夫)に師事したことが書かれていて、あれ、どこかでこの話、見たことあるぞ、と思ったら、京都文化博物館の2016年の特別展「江戸の植物画」(2016年4月29日〜6月26日) http://www.bunpaku.or.jp/exhi_kikaku_post/edo_syokubutsu/ だった。

今回の櫻谷展の図録には、参考として京都府蔵(京都文化博物館管理)の「群芳之図」の図版が掲載されていて、おお、文博で見たのこれだよこれ、ということで、今までバラバラに何となく印象に残っていた事柄が、やっとつながった感じ。

整理すると、木島櫻谷は、

○江戸期において小野蘭山後の京都本草学の中心となった、平安読書室の明治期における門人
○住友春翠の依頼を受けて大作を制作するなど、住友家との関わりがある
○櫻谷の養子となった日本史学者・木島誠三の古文書蒐集のパトロンだった?
○残された櫻谷のコレクションには江戸漢詩文や漢籍が多数残されている模様だが現在調査中でまだ全貌は不明

という人物、ということになる。

櫻谷といえば、今回の展示のタイトルからも分かるように、動物画の名手として知られており、平安読書室における博物画の伝統との関係も気になるところだが、櫻谷が通っていた明治20年代半ばの平安読書室は漢学塾であって、本草学について櫻谷が学んだという話は出てこないようだ。ただ、櫻谷の日本画の師である今尾景年(1845-1924)は、若い頃に平安読書室で本草学を学んだそうで、江戸期の博物画の伝統が景年を経由して櫻谷に受け継がれている、という線もあり、という感じである。とはいえ、櫻谷に対する平安読書室の影響は、むしろ漢文・漢籍の受容・蒐集に表れている可能性の方が高そうで、ここは櫻谷文庫 http://www.oukokubunko.org/ に遺されているという漢詩文・漢籍の整理・分析が進むことを期待したい。

さらに、今回の展示では、木島櫻谷についての新たな注目点が明らかになっている。櫻谷に送られた、大正11年の京都市立紀念動物園特別優待券(要するに年間パス)が展示されているのだ。加えて、櫻谷文庫に残された大量の写生帖の一部が展示され、動物園におけるスケッチがあることが明確となっている。つまり、日本の美術における、動物園の受容と影響が、櫻谷を通じて見えてくる可能性がある、ということだ。
考えてみれば、生きたライオンや熊の姿を直接かつ長時間観察して描く、といったことは、動物園ができるまでは基本的に不可能であったわけで、関西圏における博覧会における動物展示や、動物園の整備が、櫻谷の画題を拡げる役割を果たしたことはおそらく間違いないだろう。
動物園が果たす社会的役割は、時代に応じて変化してきているが、近代の日本美術において動物園が果たした役割、ということを考えるという意味でも、櫻谷展は必見だと思う。
個人的な感想でしかないが、写生帖では客観視されている動物が、作品として描かれる段になると、明らかに表情や何かしらの感情を持つ存在として描き出されているように見受けられた。動物をありのままに描くのではなく、人物と同様にある種のキャラクターとして描いていることについては、賛否両方の評価があり得ると思うが、現代の方がキャラクター化された動物表現が抵抗なく受入れられる素地はあるのかもしれないな、という気がした。

展示図録も必見で、櫻谷の生涯と業績を整理した、実方葉子「画三昧への道、ふたたび—木島櫻谷の生涯と動物画」p.8-19.や、櫻谷の代表作の一つで夏目漱石がボコボコに酷評したことで知られる「寒月」を軸に、同時代に制作された下村観山、菱田春草らの樹林図表現との関連を論じる、中野槙之「明治末の樹林図—落葉と寒月の周辺」p.87-93.など、読みごたえのある論考が多い。関心のある向きはぜひ入手を。

あと、会場では、晩年の櫻谷と家族を撮影したモノクロ・サイレントのホームムービーが上映されいて、孫たちと戯れる櫻谷の好々爺ぶりと、櫻谷邸の庭と施設の充実ぶりをかいま見る事が出来る。
この映像に登場する木島櫻谷旧邸は2018年3月3日〜4月4日まで公開されている。時々公開があるようなので、櫻谷文庫 http://www.oukokubunko.org/ のサイトをご確認のこと。

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