21世紀の学問のすすめ
夏木好文『21世紀の学問のすすめ ユビキタス社会を生きるために』(ひつじ書房, 2003)を読了。
なんだかちょっと不思議な本。一昔、いや、十昔くらい前であれば、こういった社会システムの再設計の提案を分かりやすい言葉で語る、というのは、パンフレットの役目だったのだと思う。そして、今その役割を引継いでいるのは、本よりも、むしろ、Webだろう。にもかかわらず、あえてハードカバーの単行書という形を取った、というところが面白い。
著者は、某大手コンピュータメーカー(中を読むとどこなのかは書いてあるが)を辞めて、ITコンサルタントの道を選んだ人なので、コンサルタントとしての名刺代わり、という側面もないではないとは思う。けれども、ひつじ書房という、様々な提言を積極的に行う出版社から、ハードカバーで本が出されている、ということ自体が、この本に内容以上(というと著者には申し訳ないのだが)の意味を与えている。出版社というフィルターを通すことで、著者だけの思い込みではない、ということが、ある程度保証される、とでもいおうか。
主張としては、高齢化社会を前提にした、60歳以上の人たちの活力を生かした、「自立資本主義」社会を構築しよう、というもので、同時に、基盤サービス会社、記録局といった、ユニークな社会基盤整備の提言も行っている。その提言自体は、実際にやろうとすると制度設計がかなり難しそうな感じだが、「戦争放棄を唱えつづけ、攻撃を受けたとたんに再軍備、という愚は絶対に避けなければなりません」というあたりに見えるバランス感覚のおかげで、素直な問題提起としても読める。このあたりが、ひつじ書房というフィルターを通り抜けることができたポイントなのかもしれない。
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