熊とワルツを
トム・デマルコ/ティモシー・リスター著,伊豆原弓訳『熊とワルツを リスクを楽しむプロジェクト管理』(日経BP, 2003)を読了。
なるほど、リスクを管理するとはこういうことだったのか、と目からウロコが落ちまくる一冊。冒頭のウィリアム・クリフォードの『信念の倫理』からの引用から、いきなり横っ面を張り倒される。一部を(孫引きになるが)引用しよう。
ひとたび行動すれば、それは永久に正しいか間違っているかのどちらかだ。その善か悪がたまたま結果を生まなかったからといって、それが変わることはない。無実だったことにはならない、見つからなかっただけだ。正しいか間違っているかは、信じたかどうかではなく、なぜ信じたのかの問題である。何を信じたかではなく、どのように信じるに至ったかの問題である。結果として正しかったかどうかではなく、目の前にある証拠を信じる権利があったかどうかの問題である。
要するに、実際には存在していたリスクを「そのようなリスクについて語るのは望ましくない」(あるいは「愛社精神が足りない」でも「気合いが足りない」でもよい)といった理由でなかったことにする、あるいは解決したことにする、といった行動は、結果としてうまくいったとしても、「間違っている」ということを、指摘しているのである。
もちろん、デマルコなので、ソフトウェア開発プロジェクトの話を中心に、具体的なリスク管理の手順が紹介されていくことになるのだが、考え方そのものは、どのようなプロジェクト(一定期間、一定の資源で、特定の目標の達成を要求される全てのこと)に応用可能だろう。
大きなリスクを見逃すために様々な小さなリスクを注意深く詳細に分析と監視するという事例、とか、個人的な挑戦としてはじめたプロジェクトでまともにリスクが管理されることはない、とか、「間違えるのは構わないが、不確かなのは駄目だ(事前に失敗するという可能性に触れることは許されないが、結果として失敗しても誰も責任を問われない)」ルールがまん延している組織はもうおしまい、とか、上司に読ませたいネタが満載である。
ただし、これは素晴らしい、ぜひ自分の仕事でも活用しようと思っても、「楽観主義(嘘をつくこと)」があたりまえの環境で真実を話すと、話した人がいちじるしく不利な立場に置かれる」、「最悪の組織は、魅力のない結果ではなく、魅力のない予測を罰する」という警告もきっちり書かれていたりする。本書を読んで共感してしまった人は、組織の中で、自分自身のポジションに関するリスクをとるかどうかの選択を迫られることになるので、そのつもりで。
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