ミュージアムが都市を再生する
上山信一・稲葉郁子『ミュージアムが都市を再生する 経営と評価の実践』(日本経済新聞社, 2003)を読了。
タイトル通り、危機的状況に置かれている博物館・美術館をいかに再生するか、という話なのだが、単に合理化しろ、民間の経営センスを導入しろ、というところで終らずに、ニューヨークなど、欧米の事例を検討しつつ、地域の再生の中核として博物館・美術館をいかに活用するのか、という議論が展開されている。
特に、文化施設の直接的な収益による経済効果のみを語る愚(よくマスコミでやる、ほらこんなに赤字です、というやつ)を徹底的に批判しているところが痛快。東京都が行った江戸東京博物館に対する事務事業評価を「本庁側の無責任な思い付きといわれても仕方がない」とばっさり切って捨てるあたり、よくぞ書いてくれた、という感じである。現状の評価は、より有効な経営のためのものではなく、単なる「管理統制」にすぎない、という問題提起は重い。
直接的な来館者数や、入館料収入の多寡ではなく、それぞれの施設の果たすべき役割を明確にし、その上で、その役割を果たしているかどうかを評価する、という仕組みが必要、という提言は、図書館や劇場など、様々な公共文化施設にも共通して通用するものだろう。
こうした提言の背景にある、文化施設の活動から生まれる様々な波及効果を引き出したほうが、短期的な赤字減らしに走るよりも、中長期的には税収の拡大につながりうる、という発想は、箱物先行の時代には省みられなかったものかもしれない。もう箱物を作る余裕がなくなったからこそ、いかに箱を生かすか、という問題提起が現実的に見えてきた、というなかなか皮肉な状況というべきか。
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