空のむこう
遠藤淑子『空のむこう』(白泉社JETS COMICS, 2004)を読了。
遠藤淑子の久々の単行本であり、短編集。そういえば、花とゆめCOMICSじゃない、というのは初めてかもしれない。
収録作は、1997年から2000年にかけてのもので、『まんがライフオリジナル』(竹書房)に発表した作品が3作収録されているのがファンとしてはうれしいところ。最高傑作、とはいわないが、ギャグあり、シリアスあり、現代物、時代物、学園物、日常エッセイと、各種とりそろえていることもあって、遠藤淑子入門用の一冊としては、結構いい感じになっている。
タイトル作ともなった「空のむこう」は、西洋ファンタジー風の設定を使いつつ慣習の力の強さの前に呻吟する若き王の姿を、学園物の「リンク」では友人の家庭の事情というどうしようもない状況に振り回される生徒たちの姿を描くなど、よく考えると、最後までいっても、根本的には何も解決はされていない話が多い。にもかかわらず、どの話もどこかラストはさわやかで、帯に書かれた「涙と笑いと希望と、勇気。」というコピーに偽りはない。
この、状況としての救いのなさと、読後感とのずれは、遠藤淑子作品に共通するものだ。これはいったい何なのだろう、とずっと思っていたのだが、『文化=政治』を読んで、少し分かった気がする。全てを外部から制御されてしまっている状況の中では、自分が自分のことを決定できる領域を、ほんのわずかな期間、わずかな空間であっても確保する、ということが、諦めと絶望の中で「希望と、勇気。」を確保するための一歩になりうる。遠藤淑子が描いているのは、一見無駄とも思える行動の持つ、こうした意味なのではないか。このことを、必ずしも(というか何というか)美麗ともリアルともいえない、一見、ほんわかコメディーとしか見えない絵柄で、描きつづけているのだろう。
というわけで、『文化=政治』の/を副読本とするのも、こっそりお勧め。
コメント