東アジアに新しい「本の道」をつくる
「本とコンピュータ」編集室編『東アジアに新しい「本の道」をつくる』(大日本印刷ICC本部(発行)・トランスアート(発売), 2004)を読了。
中国・韓国・台湾・日本の「四つの国」(微妙な表現だなあ)の出版人、編集者たちによる、「東アジア共同出版」の日本語版。この後、各国語版と英語版が予定されている。
基本的にはそれぞれの国ごとのパートに分かれていて、各パートはグラフ記事と論説記事とを組み合わせるという構成。特に、ビジュアル重視のグラフ記事の部分は、各国ごとのレイアウト感覚の違いが出ているのか、バラエティに富んでいて楽しい。そして、杉浦康平・呂敬人・安尚秀という日中韓のブックデザインの重鎮鼎談と、各国の論者によるコメントが集められたパートが最後を締めている。
巻頭に置かれた韓国パートでは、朝鮮戦争、軍事独裁政権の時代を経てきた韓国の現代出版史が語られている。とにかく熱い。その熱気には当てられてしまう。中国、台湾も程度の差こそあれ、出版が自由化されてきたのは比較的最近(台湾の戒厳令解除は1987年、中国の改革開放路線も1980年代(ただし1989年の天安門事件で一時後退)以降)のことであり、商業化の波に戸惑いながらも、新しい可能性に闘志を燃やしている様子が伝わってくる。
中・韓・台湾の出版事情については、あまり情報が入ってこない(取りにも行っていないような気もするが)ので、非常に貴重な情報であることは間違いない。ちなみに、各国におけるマンガ出版の位置づけなどについては直接の言及はないが、ここで論じられている出版状況全体を踏まえて考えた方がよいのでは、という気もする。
それにしても、全体を通して見ると、日本が近代化・自由化の先頭を走ってきた結果、一番最初に近代的出版システムが老いを迎えてしまっている、という印象はぬぐい難い。国民国家(Nation State)としても、日本は最も先にそれに飽いてしまうところまで行き着いてしまったのでは、という気分すら感じてしまう。日本パートだけが、第二次大戦以前の図版を多用する構成となっているために、そのズレが強調されているように感じてしまったのかもしれないが……。
日本の出版は、近代化の先頭ランナーとして、新しいあり方を自力で見つけ出すしかない時代に来ているのかもしれない。図書館もその枠組みの一部であることを自覚しないといかんのだろうなあ。
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