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2004/05/07

アメリカNIHの生命科学戦略 全世界の研究の方向を左右する頭脳集団の素顔

 掛札堅『アメリカNIHの生命科学戦略 全世界の研究の方向を左右する頭脳集団の素顔』(講談社ブルーバックス, 2004)を読了。
 久しぶりにブルーバックスを買ってちゃんと読んだような。NIHは、National Institutes of Healthのこと。「Health」とはいっても、実際には応用から基礎まで生命医学関連分野全体をカバー。ちなみに、MEDLINE、あるいは、PubMedで知られている米国の国立医学図書館(NLM: National Library of Medicine)はこのNIHの一機関だったりもする。
 本書は、NIHで研究生活を送ってきた著者が、NIHの歴史や、NIHで生まれた様々な研究成果について解説しつつ、同時に、そのような研究成果の生産を支える研究資金分配の仕組みや、人事システムなどを紹介するという一冊。帯には「研究に携わる人、必読の書」とあるのだけれど、むしろ、科学技術振興策を考える人や、研究機関のマネジメントに携わる人こそ必読なんじゃなかろうか。
 残念ながらNLMについての記述はほとんどないので、図書館屋的には物足りないところもあるけれど、NIHがどのように全米の研究者に研究資金を分配するのか、というシステムの解説は一読の価値あり。NIHの厖大な予算のかなりの部分が,全米(あるいは世界中)の研究者に研究資金として提供されている、というのもすごいが、研究資金を獲得した研究者が所属する機関にも図書館や研究施設を維持するための資金が与えられる、という仕組みがお見事。大学や研究機関は、多額の研究資金を獲得できる優秀な研究者をできるだけ多く確保しようと凌ぎを削ることになるわけだ。さらに、ピア・レビュー(同分野の研究者による評価)と、有識者による審査を組み合わせることで、学閥やなれ合いを排除することにも成功しているらしい。
 ただ、本書は、NIHの良い面だけを強調して書いているところもあるので、考えようによっては人体実験ともいえる治験、ヒトゲノムの活用、ヒトの体生胚細胞を用いた研究の問題などについては、問題点の存在は指摘しつつも、かなり楽観的。そのあたり、賛否の分かれるところかもしれない。
 何にしても、いくら「科学技術立国」や「知財立国」と叫んで、科学技術関係の予算を増やしたり、21世紀COEプログラムのように大学に競争的資金を導入したりしても、研究者と研究機関を支えるシステム全体のデザインのレベルで見ると、米国とはまだまだ比べ物にならない、という読後感は結構強烈。これじゃあ、頭脳が流出するのもしかたないかも、という気分になるなあ。

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コメント

非常に的確な書評です。
これは研究者というより、行政に携わる人にぜひ読んでもらいたい一冊です。大学の法人化という逆風の中、日本の基礎研究への危機感をもっともってもらいたいと思います。
確かに楽観的な部分もありますが、これも著者の長年の経験の中からかもしだされる考えによるところなのかもしれません。
もちろん、いままで以上に倫理的、社会的に大きな影響を及ぼすであろう生命科学・医学の研究については、傍観は許されませんが・・・

小沢さん、ありがとうございます。

NPO Science Communication News
http://blog.melma.com/00106623/">http://blog.melma.com/00106623/

などを見ていても、日本の科学技術振興策は、あまりに直接的に経済的な効果を狙い過ぎているような気がして、正直、大丈夫かなあ、と感じます。少なくとも10年先を見た制度設計を考えてほしいものですが……。

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