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2004/05/12

ず・ぼん 図書館とメディアの本 (9) 特集・図書館の委託

 『ず・ぼん 図書館とメディアの本 (9)』(ポット出版, 2004)を読了。忘れた頃に現れる、左派系(?)図書館関連雑誌の最新号。特集は「図書館の委託」。
 図書館の委託問題というのは、公共図書館の運営(の一部)を、自治体が企業に委託する、というのが最近増えている、という話。図書館の運営は、図書の購入費や施設の維持費、そして蔵書データベースや貸出管理システム系の開発・維持費を除けば、ひたすらマンパワーが必要=人件費が必要(つまり、自動化・機械化できる業務が案外少ない)という構造になっているので、職員を直接抱え込むより、アルバイト・パートを中心にして、低賃金で夜間・休日も人手を投入できる企業に下請けに出してしまったほうが安くつく上に、開館時間を拡大できる。一部の例外を除けば、どこの自治体も財政は火の車なので、企業に委託して人件費を削り、しかも、開館時間が延長されれば住民サービスの拡大にもなって一石二鳥、というわけだ。
 それってどうなんだろう、というのを議論する、というのが特集の趣旨なのだけれど、委託反対論で埋め尽くされているのかと思いきや、意外に冷静な議論が展開されていて、ちょっとびっくり。委託を受けていた某企業のアルバイトが図書館利用者の個人情報を悪用なんて話もあって、委託に対する批判的な話も結構あるものの、委託は駄目ったら駄目だ、という原則論ではなく、全体としては、条件によっては委託という手段もありえる、という論調。福島聡(ジュンク堂書店池袋本店副店長)が座談会に参加したりして、図書館以外の視点が折り込まれているせいもあるかもしれない。
 でも、それだけではなくて、既に多くの公共図書館を、自治体が雇用する非常勤職員(アルバイト)が支えていて、そもそも正職員だけでは図書館の運営はできないという実態が、こうした、条件によっては委託容認、という論調の背景にあるような気もする。
 ちなみに本書には、ある図書館で、非常勤職員がヤングアダルト(YA)サービスの改革をやってのけた、というレポートまで掲載されていて、こうなると、アルバイトというより、フリーランスの専門職として扱うべきではないのか、という気もしてしまう。その一方で、長期雇用を目指して非常勤職員が組合を作って運動したけど駄目だった、という話もあったりして、やはり非常勤職員は非常勤職員としてしか扱われない、という現実も。ちなみに、企業への委託が実現した場合には、図書館の非常勤の枠はなくなることが多く、図書館で働きたければ自治体非常勤よりもさらに賃金の低い、委託先企業のアルバイトやパートとして働くことを選択せざるをえない、ということになるらしい。うーむ。働く場としての図書館のイメージがどんどんダークになっていくなあ。
 それはさておき、この号の『ず・ぼん』で一番面白いのは、特集とは無関係な、日本図書館協会の元・事務局長、栗原均のインタビューだったりする。若い頃の関西図書館界で活躍した話や、1986年のIFLA東京大会(今もう一回やれといわれてもできないんじゃないかなあ)の資金集めの苦労話、TRC(図書館流通センター)設立の経緯といった話も面白いが、図書館史萌え(日本に何人いるんだ?)の魂に来るのは、「図書館事業基本法」の話が出てきて挫折するまでの顛末。
 「図書館事業基本法」というのは、昭和56年〜57年ごろ、国会議員の超党派の団体である図書議員連盟と各種図書館団体とが組んで、議員立法によって館種を超えた図書館振興の基本法を作ろうとしたもの(というまとめでいいのかな?)。図書議員連盟の裏方でもあった国立国会図書館と、日本図書館協会が推進役になって、色々な図書館関係団体の意見をまとめて法律案を作る運動を展開したのだけれど、結局は頓挫してしまった、幻の法律なんである。
 実は、運動が頓挫したのは、学術情報システム構想によって大学図書館をまとめていこうとしていた文部省の思惑を受けて、国立大学図書館協議会(現・国立大学図書館協会)が反対に回ったためだったのだ!……といった話が、今回のインタビューで語られている。実名がばしばし出てくるので、知っている人は大興奮、知らない人はなんのことやら、という話なのだが、とにかく、めちゃめちゃに生々しくて政治的。図書館界の主導権を巡る、国会図書館と文部省との暗闘(?)の一面を堪能できる。その後、文部省/文部科学省が、図書館に対する熱意を今一つ見せてくれなくなり(学術情報システム構想を受けて設立された、学術情報センターは、その後、NII(国立情報学研究所)に改組、現在、NIIは情報・システム研究機構の下部機構となっている)、国会図書館が大学図書館に対して何となく距離を置いている感じがするのも、なんとなく納得。まあ、インタビューだから、全部鵜呑みにするのは危険なんだろうけど、でも、面白いなあ。……と、思ったけど、ますます図書館のイメージを暗くしてしまったような気も。まずかったかなあ。

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