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2004/07/01

戦後政治の軌跡

 どうも体調がすぐれず。某学会で発表せねばならんのに、準備が進まない。
 とりあえず、先日読み終った蒲島郁夫『戦後政治の軌跡 自民党システムの形成と変容』(岩波書店, 2004)について忘れないうちに。
 帯にもあるとおり、国政選挙の投票結果集計、あるいは選挙時に行った各種調査の成果を元に、20年にわたって、地道に行ってきた分析の成果を一冊にまとめたもの。よくある評論家的な分かりやすい一刀両断的論説を期待する向きにはまったくお勧めしないけれど、逆に、ギラギラした宣伝文句ばっかりでデータも中身もない話にはうんざり、という方には強力にお勧め。
 著者がいう「自民党システム」というのは、相対的に経済発展が進む都市部で得られた税収を、経済発展の遅れた地方へ公共事業という形で分配することで、所得配分の均一化を実現し、経済発展と、国内の政治的分裂を回避することに成功してきたシステムのこと、という要約でいいのかな?
 バブル期くらいまでは、投票率が高い方が、自民党は有利で、他の野党は不利だったくらい、この「自民党システム」はうまくいっていたのだけれど、経済成長が減速してしまったり、都市部への人口集中がどんどん進んでしまったり、地方と都市との間の一体感も失われてきた(昔は、多くの人の故郷は「田舎」だったわけだけれど、今では住宅地が故郷、という人も多いだろうし)りで、システムの変容が進んでいった、というのが大まかな流れ。
 実際には、個々の衆議院・参議院の個々の選挙や、国会議員に対する意識調査などの分析を通じて得られた分析の結果を集約すると、そういう流れにまとめられる、ということなので、個々の選挙の結果だけでは、意外に変化の大きさは見えにくかったりするところが面白い。昔は、党首のイメージとどの党に投票するかは関係なかった、などといっても、実感がわかないかもしれないし、政策が争点にはならない、というのが日本の選挙の特徴だった、といわれても(多少、そういう面が残っている気もしなくもないが)、やっばりピンとこないだろう。20年間の間に、選挙によって選ばれているのが何なのかが、どんどん変わってきているのだ。
 今度の参院選にしても、投票したって何も変わらないや、だったら面倒だから行くの止めよう、と思っている人も多いかもしれないけれど、選挙、あるいは投票というのは、統計レベルで結果が出てくるものなので、(余程劇的な社会的状況がないかぎり)簡単にはコロコロ変わらないのはしかたない。
 けれども、本書を読めば、(時間はかかっているけれど)確実に変化は進んでいることがよくわかる。劇的な変化だけが変化じゃない。アメリカの大統領選みたいに、スパっとすっきり変わらなくても、やっぱり、選挙によって、変わるものはあるのだ。
 というわけで、この先、どういう方向に変化が進んでいくのかは、一人一人それそれの判断の集合としての選挙結果によるのだ、ということを、じっくりと教えてくれる一冊。選挙前に読み終えるのはちとしんどいかもしれないけど、その次の国政選挙(って、解散がなければいつだっけ?)までには、ぜひ。

(7月3日補記)
 カテゴリを付けわすれていたので、付けました。

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