最新・アメリカの政治地図
園田義明『最新・アメリカの政治地図 地政学と人脈で読む国際関係』(講談社現代新書, 2004)を読了。
著者は萬晩報で、明らかにそこらの評論家とは異なる視点からのコラムを連載していて、それで気になっていた一冊だったりする。(国際戦略コラムも参照のこと)
世の中のよく分からない複雑なできごとを、単純化して分かりやすくするのは、実はそんなに難しいことではない。例えば、○○は「敵」だ、とレッテルを貼ってしまえば、世界は敵と「我々」の二種類になって、とても世の中は分かりやすくなる。○○には、サヨクでも、ウヨクでも、官僚でも、政治家でも、大企業でも、アメリカでも、中国でも、北朝鮮でも、何でも入れることができるので、その場その場で、何が「敵」なのかを語っていれば、大抵のことは分かりやすく説明することができてしまう。
けれども、ちょっと考えてみればわかるように、「敵」と「我々」の二種類の人間しかいない世界なんて、ちっとも現実的ではない。実際には、世の中は「色々」で、「様々」で、複雑だ。そのややこしい世の中を、複雑なまま、分かりやすく説明する、というのは、並大抵の知力でできることではない。
というわけで、本書はそれができる著者による一冊だったりする。
著者がとっている方法は、いわれてみれば単純で、世界のエスタブリッシュメントと呼ばれるような人たち(各国の中枢にいる政治家や、大企業グループを動かしているビジネス・エリート)の、人脈図を描き出すことで、今の世界の動き(の少なくとも一面)を切り取ってみせる、というもの。とはいえ、書かれた本を読むのは簡単だけど、ここまで分析するのは大変だよなあ。
描き出される人脈図は、絡み合うクモの巣のようで、これぞホントのWWW、という気分になってしまう。その人脈図の中の様々な思惑の中で、いかに日本が翻弄されているか、という分析としても秀逸。経済に加えて、地政学や宗教を通じた様々な人の結びつきも論じられていて、これがまた面白い。
個人的には、イラクへの自衛隊派遣について、派遣反対でもなく推進でもなく、ここでオランダ・英国との協力関係(米国とではないことに注意)を深めることが将来につながる、という分析をしたりする、この視点の取り方にぐっときてしまった。危機をあおって「敵」を作り出すだけの自称「現実主義者」とは格が違う。
米・欧の宇宙開発と、(特に米に)翻弄される日本の宇宙開発の状況について論じている部分もあるので、そのあたりに関心のある人にもお勧め。
選挙前の一冊としてもお勧め、といきたいところだけど、外交政策は(イラク以外は)あんまり論点になっていないような……。
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