季刊・本とコンピュータ 2004年夏号
『季刊・本とコンピュータ』2004年春号(発行:大日本印刷 発売:トランスアート, 2004)を今さらながら読了。
やはり一番面白いのは、永江朗「出版社はなぜ消えないのか」。出版危機だといわれながらも、書店はバタバタと潰れているのに、出版社は(相対的に)結構生き残っているのは何故か、という視点から、書店と人文系出版社の現状をリポートしたもの。結論からいうと、出版社側は人件費などの経常経費を見直し、商品展開を変更することで、生き残りを図る余地があったが、既に経費節減を限界まで進めてきた書店にはその余地が残っていなかった、とのこと。うーむ、書店を経営する、というのは、今やえらく困難なことなのか。一方で、後継者のいない地方出版社は消えていくばかりだし、図書館が(特に全集などの「巻数もの」の)本を買わなくなった影響がかなり大きいことも指摘されている。
佐藤俊樹「本はまだ生まれていない」は、「マルチメディア」的な環境の普及を背景に逆説的に、純粋に文字だけのメディアが持つ可能性を語り、ガブリエル・サイド「バベルの混乱を嘆くなかれ」は、出版の持つ多様性こそが重要だと語る。「特集・古本屋のはじめかた」は、古本屋の基本を分かりやすく解説。
仲俣暁生「共有地の開拓者たち 第四回 山形浩生さん」も、翻訳家としての側面を重視した構成。切り貼り編集のバロウズ本、なんか昔見た事があるような気がするんだけど、記憶違いかなあ。
という具合に、今回は紙の本にぐっと引き寄せられた構成。「未来の本のつくり方 特集・2100年の本」も、今の本の延長線上に未来の本を捉えている。
『本コ』もあと一年、四号で終了、とのことで、軸足を「本」に置いて、そこから考える、という方向性になっているのかな? それだけ「本」が難しい状況に置かれていて、「コンピュータ」が新しい可能性を示し切れていない、ということなのかもしれない。
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