インパクトファクターを解き明かす
山崎茂明『インパクトファクターを解き明かす』(情報科学技術協会, 2004)を先日読了した。
インパクトファクターというのは、学術雑誌に関係する業界ではよく知られている言葉で、最近では、研究者の業績評価と絡めて言及されることも増えてきている。で、それは何かというと、ISI(Institute for Scientific Information社、現在のThomson ISI社)の創設者である、ユージン・ガーフィールド(Eugene Garfield)博士が提唱した、学術雑誌の評価指標の一つだったりする。
ちなみに、ある雑誌の2004年のインパクトファクターは次の計算で求められる。
2004年のインパクトファクター=2002年と2003年にその雑誌に掲載された論文が他の論文に引用された回数/2002年と2003年にその雑誌に掲載された論文総数
要するに、一定期間に引用される率が多い雑誌は、その分野で重要性の高い雑誌であろう、という考え方のもとに作られた指標、という説明でいいのかな?
何で引用された回数なんぞがわかるのか、というと、ISI社が長年、Science Citation Index(ここでいうScienceは自然科学のこと。現在は、Social ScienceとHumanitiesのCitation Indexもある)という論文の引用関係を索引化(当然現在はデータベース化)して販売する事業を行ってきたからだ。もともと、ISI社は分野毎の学術雑誌の目次速報であるCurrent Contentsを提供するところからスタートして、さらに引用文献索引であるScience Citation Indexに進んでいる。どちらにしても、あらゆる雑誌を収録対象にすることはできない以上、何らかの指標に基づいて収録するかどうかを判断することになる。
ところが、例えば、単にその雑誌が引用された回数だけをカウントしてしまうと、掲載論文数や刊行頻度が高い雑誌が有利になってしまう。そんなこんなで色々な要素を考えた末にこのインパクトファクターという指標を、ガーフィールドさんは提唱する事になるのだが、偏差値の例を思い出せばわかるように、数字は独り歩きするもの。今や研究者個人の業績評価にまで、インパクトファクターが影響を与えるようになってしまった。
本書に紹介されている例によると、自分の論文が掲載された雑誌のインパクトファクターの合計を提示させたりする研究機関まであるらしい。インパクトファクターは、あくまで雑誌ごとの評価指標の一つでしかないので、そんなものを足し合わせたところで、その数字には何の意味もないのだけれど……。所詮、学者も数字にゃ弱いってことか。
大学図書館を中心にした図書館でも欧米の学術雑誌を買う・買わないの判断の指標として、インパクトファクターが使われているのだけれど、本書を読むと、インパクトファクターに過度に頼るのは危険であることがよくわかる。完全な解法はないわけで、実際には色々な判断基準を組み合わせて、どの雑誌が影響力があり、金を出して買う価値ある雑誌なのかを判断していくしかない。まあ、単に機械的に数字で比べて決めればいいだけなら図書館員には何の知識も必要ないわけだから、ある意味で完璧な指標はない、ということは、図書館屋としてはありがたい(作業としては手間がかかるけど)ことなのかも。
本書では、インパクトファクターの特徴や、様々な問題点、限界を紹介しつつ、インパクトファクターの問題点を回避するために提唱されたいくつかの評価指標などもあわせて紹介していてわかりやすい。まとめかたも簡にして要を得る、といった具合の、便利な一冊。一般書店では手に入らないみたいなので、関心のある向きは情報科学技術協会に直接注文を。
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