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2004/09/01

談 no.71 特集・匿名性と野蛮

 『』no.71(たばこ総合研究センター, 2004)を読了。特集は「匿名性と野蛮」。この特集タイトルからわかるように、「2ちゃんねる」が特集のキーワードの一つになっている。
 巻頭は、斎藤環・北田暁大の対談「匿名化するメディアからメディア化する匿名性へ 2ちゃんねる、Blog、チャットのディスクール」。北田暁大が『世界』2003年11月号に「嗤う日本のナショナリズム」を発表し、それを踏まえつつ、斎藤環が『Inter Communication』no.48に「メディアは存在しない? メディアのオートポイエーシス(前編)」を発表した、ということを踏まえての対談。もちろん、両論考からポイントになる部分が注記代わりに引用されているので、両方読み逃していた私のような無精者でも大丈夫。2ちゃんねるとBlogに関して、斎藤・北田両者による様々な論点が提示されているので、特に「2ちゃんねる」論とかをやりたい人は読んでおいた方がよいのでは。
 「2ちゃんねるにおける批判は内容とは無関係」であって、批判している自分の批判内容については「懐疑の欠如」が徹底している、という話から、コンテクストを自己生成していくところが2ちゃんねるの特徴、という方向に話を展開していくあたりとか、2ちゃんねるに書き込むことも匿名性というよりは固有性への欲望の現れではないか、とか、2ちゃんねるに思い入れが特にないポジションで読んでいると、ふむふむ、という感じ。ただ、こうも観察者然、とされてしまうと、思い入れのある人はちょっとひっかかるかもしれない(二人ともそれなりに量を読んだ上で語っているんだけど)。個人的には、2ちゃんねるにしてもBlogにしても、書かずにただ読んでいる層というのが、かなりの数いるはずなのに、その存在が議論からこぼれ落ちてしまっているような気がするのが、少々不満ではあるかなあ。あと、Blogを第二世代システム(解放系)、2ちゃんねるをオートポイエーシス(第三世代システム)の比喩で語る部分があるのだけれど、システムの構成要素が異なるだけで、どちらもオートポイエーシス・システムとして記述できそうな気も。誰かやらないかなあ。
 小泉義之「ゾーエー、ビオス、匿名性」は、「生-政治」をキーワードに、社会性を超越した肉体であるゾーエーという場から、社会的な身体であるビオスを立ち上げ直そう、ということを提言……しているのかなあ。いかん、語られている概念がよくわかってない。ノーマライゼーションとか、バリアフリー、といった形で、政治的・道徳的に正しい施策が実施されればされるほど、隠れた形で排除が進行する(例えば、結果として家賃が上昇して低所得者層が住めなくなるとか)のだから、むしろ、肉体的な差異は徹底的にむき出しにすべきだ、とか、利用される存在として排除される胚の問題を取り上げて、中絶は一切禁止すべきだ、といった主張が展開されていて、結構過激。権力のあり方が変化していくのに対して、どう対抗するのか、という視点と論理は一貫しているが、それだけでは、政治的・道徳的な「正しさ」には抗しきれないような気もしてしまう。色んな意味で難しいなあ。
 酒井隆史「匿名性…ナルシシズムの防衛」は、ニュー・ヨークで展開されたゼロ・トレランス政策(犯罪の兆候と思われるもの(ホームレスとか、売春婦とか、低所得層の黒人とか)は全て地域から排除するという、疑わしきは隔離か追放、という政策)などを題材に、徐々に閉鎖的な共同体が強化されてきている状況を分析。養老孟司『バカの壁』を「暴言」だらけと切り捨て、これまでは自己の捉え直しの契機として捉えられてきた他者の根本的な不可能性を、ナルシシズムの強化の方向で語ってしまっている、と分析するあたりは痛快。石原某都知事をはじめとする暴言政治家については、「子どものような」、他者との倫理的緊張を失った人間が父親として振る舞っている、と容赦がない。最後に語られた、「迷惑」をかけないように、つまり他者との摩擦を回避するナルシシズムに耽溺するのではなく、「迷惑」をいかにかけあうのかを互いに考えつづけることが重要、という指摘がぐっとくる。
 今回も池袋リブロで購入したが、雑誌フロアではなくて、人文フロアで探すのが正解なので、入手したい方はご注意を。

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