すばらしき愚民社会
小谷野敦『すばらしき愚民社会』(新潮社, 2004)を読了。『考える人』の連載「大衆社会を裏返す」の単行本化(大幅加筆ありとのこと)。
ありゃ? また「2ちゃんねる」ネタがあるなあ。別に意図して選んだわけではないのだけれど、そういう巡り合わせなのかも。
2ちゃんねるに関しては、徹底して批判的。「大きな現実を動かすことはできない」という視点は、『談』no.71に掲載された斎藤環・北田暁大の対談とも通じるものがあるような。そこを、文化文政期の「頽廃した町人文化」と比較して語るところが、小谷野敦らしいところかなあ。といいつつ、むしろ、指摘としては、2ちゃんねるで叩かれるのを恐れるマスコミにとって、2ちゃんねるが一種の抑圧的な権力として作用している、という点の方が重要かも。
フェミニズム&ポストモダン批判も相変わらずで、両者の持つ強い政治性に対して、学問はそんなものではないだろう、的なポジションから、上野千鶴子、宮台真司、金森修といった論者を切り捨てていく。実際の学問が政治的なバイアスを持ったものだ、と主張する事と、だから学問は政治的なものであって構わない、とすることは別物だ、ということなのかな?
その他、禁煙ファシズム批判などもあるが、やはり、学問の世界における近世の軽視を批判した部分がいい。それと、大衆論の文脈で、10万部売れても日本人の0.1%、という指摘をしていて、当り前といえば当り前なのだけれど、おお、と思ってしまった。こういう感覚は、本というものの持つ影響力を、実感として把握するためには重要なもののような気がする。
あとがきでは、イラク戦争についてアメリカ支持を鮮明に打ち出すとともに、例の人質に対する非難の声も、愚かな知識人に対する、「一般国民の良識」として評価する姿勢を明確に打ち出している。うーん、軍事的・地政学的状況をリアルに認識せよ、というのはわかるのだけれど、強引に政策的選択肢を狭め過ぎているという印象も。潜在的に敵/味方となりうるものを意識しつつ判断を行うことと、最初から敵/味方を固定して判断を行うこととは違うことのような。
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