創刊号のパノラマ
昨日は、うらわ美術館に、「創刊号のパノラマ 近代日本の雑誌・岩波書店コレクションより」(会期:2004年9月4日〜10月11日)を見に出かけた。
うらわ美術館は、「美術館」とはいっても、独立した建築ではなくて、浦和センチュリーシティビル(浦和ロイヤルパインズホテルなどが入っているビル)の3階にある。ビル自体が結構でかいので、展示面積はそれなりにあり。
今回の展示は、岩波書店に保管されていた雑誌の創刊号コレクション(2001年夏に岩波書店の図書室で発見)約2,900冊の内、1,500冊を展示する、という驚異的な物量作戦。表紙だけとはいえ、1500点を一気に見るのは相当の集中力を必要とするので、見に行く人は覚悟したほうがいい。壁面に大量の雑誌がぶら下がっている、というのは、ちょっとあまり体験できない空間なのでは(会期中に落ちたりしないことを祈ります…)。
幸い、たまたまだったのだが、岩波書店編集者でこのコレクションの整理に携わった桑原涼さんによるギャラリートークに途中から合流できたので、まず、桑原さんの説明を聞きつつ全体をざっと眺めた上で、再度最初から見直す、という形で堪能することができた。
原則として時代順排列(美術雑誌のみ別コーナー)なので、その雑誌が刊行された時代の雰囲気を感じつつ、同時に、同時代であっても分野や扱う主題によって多様性が存在していて、これがまた楽しい。グラフィックデザインやタイポグラフィ、印刷技術の変化などを辿りたい人にとっても、いいサンプルかも。あ、あと、横書きが右からなのか左からなのか、という変化をたどる、という楽しみ方もあり。
個々の雑誌についてどうこう、というだけの知識はないのだけれど、何故か『南葵文庫報告』とか『国立中央博物館論叢』(満洲国立中央博物館の紀要)があったりするのが、結構気になったり。誰がどういう基準で集めたのかなあ(今のところ謎らしい)。あと、製本業界向けの専門誌が少なくとも二誌あったのが何となく印象的。どういう中身だったんだろう。
実は、雑誌によっては、ちょっとだけ中身をパネルにして見せてくれているのだけども、もちろん、全体の物量からすれば、ほんのわずかだけ。もっと見たい、というのが本音ではあるけど、この量を見せてくれただけでも感謝すべきでしょう。
図録は池袋のリブロなどでも販売していたような気が(当然、会場でも購入可)。いわゆる美術館の図録的な解説が主ではなく、文章は紀田順一郎・森まゆみ・原武史・木下直之といった面々によるエッセイが中心。あとはひたすら表紙の図版が並ぶ、という構成(タイトル索引あり)。
岩波書店の桑原さんの話では、雑誌は、透明な樹脂製(原材料も言っていたような…)のクリアフォルダー(上と脇の二方向が開いているやつ)に挟んで、何冊かをまとめて保存箱に入れて保存しているとのこと。酸性紙だからなあ、この先の保存は気をつけないとまずいかも。それにしても、岩波はこのコレクションをこの後どうするのだろう。このコレクションの整理に、松戸市美術館準備室(松戸市のWebサイトで記述が見つけられないのは何故?)の学芸員の方が、最初から関わっているという記述が図録にあるのだけれど、何か予定があるのかな?
ちなみに、うらわ美術館は「本をめぐるアート」というのを、収集の一つの柱にしていて、「新収蔵作品展(前期) 本のアート[日本編]」(会期:2004年5月11日〜10月11日)も同時にやっていたりする。小さな展示とはいえ、こちらもお見逃しなく。杉浦非水装丁本とかあり。
あえて文句をつければ、美術館の責任ではないのだろうけれど、ビルの地下の駐車場に入れても駐車料金の割引とか全然なし、というのは何とかならないかなあ。電車で行け、ってことか……。
あ、あと、浦和でお茶するなら、伊勢丹・コルソの裏手にある山口屋がお勧め。デザートが絶品でした(食事も旨そう)。
(9月15日追記)
図録は岩波書店から一般書としても販売されてたんですな(9月12日(日)朝日新聞朝刊書評欄に広告が出てた記憶あり)。でも、会場で買ったものには、岩波の奥付は付いてない、ということは、一般書籍ルートで流れるものと会場で販売されるものと、二種類(中身は同じなんだろうけど)ある、ということなのかな?
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