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2004/10/23

キャリア転機の戦略論

 昨日の更新がちと重いネタだったので、今日は軽めに先程読み終った榊原清則『キャリア転機の戦略論』(筑摩書房ちくま新書, 2004)を。
 著者は、ロンドン大学ビジネススクールの準教授を勤めていた間に、様々な年代・出身国の学生、それから大学のスタッフや友人・知人などに、キャリアの変遷についてインタビューを行っていたという。その数、約50人。本書は、そのインタビューの中から、各年代ごとに典型的な、総計12名についてその概要を紹介する、という趣向。著者の関心は、キャリアの転換点における意思決定、というところにあるようで、特に転職や、ビジネススクール等の大学院レベルの学位取得(ビジネスの場合はいわゆるMBA)にあたっての判断の背景にあるものを探っていく、という側面が強い。
 本書の全体は、20代から30代前半のキャリア初期、30代半ばから40代のキャリア中期、50代以降のキャリア後期という具合に大きく3つに分かれている。さらに、キャリア中期については、男女の差異が大きい(英国・欧州でもそうなのか…)ことから、男性と女性をそれぞれ分けて論じている。
 結論をまとめてしまえば、キャリアの転換点においては、ちゃんと中長期的な視野を持って判断することが重要、という話になってしまって、身も蓋もないのだが、欧州の人間だから転職ばかりしているかというと、そういわけでもない、というのがわかって面白かったりもする。また、常に一定の成果を上げ続けるためには、継続的に学習意欲を持ち続けていることがポイントだったりするらしい。学習意欲と仕事があんまりつながってない我が身を振り返ると、何とも複雑な気分ではあるのだけれど……。
 それにしても、どの年代に対しても大学院レベルの教育が開かれていて、しかも、それは大学(学部レベル)を卒業しているかどうかに関わらない、というのは、なかなかよい環境ではなかろうか(ただし、学費はそれなりに高いそうで、大抵の場合、銀行から借金してまかなうらしい)。そうした環境が整えられているからこそ、プロフェッショナルとして認められるためには大学院レベルの学位が必須になっているみたいだし。日本における大学・大学院が置かれている状況とはかなり異なる世界がそこには広がっている。まあ、そこには現場の労働を一段低く見る階層社会としての側面もある、と著者が指摘している通り、単にばら色の世界というわけではないのだけれど、少子化社会において大学が生き延びる一つの方策がここにはあるような気もしなくもない。
 単純に、欧州・英国の働く人たち(ただしMBAを取ろう、なんて人たちなので、いわゆる「労働者階級」というのとはちょっと違うらしい)の、人生の一端をのぞき見る、という楽しみ方も可能な一冊。あえて文句をつけるなら、年代論として語られている部分のうち、むしろ、世代論として論じた方がいい部分もあるような気が。特に、不況期に最初の就職活動を行った現在キャリア初期の世代と、景気が絶好調の時代にキャリア初期を駆け抜けた現在キャリア後期の世代では、キャリアに対する考え方が大きく違っているのではないか(年代の問題というより、この先も違いは残るのでは?)という疑問は残る。が、まあ、そこまで堅苦しく読む本ではなくて、欧州・英国におけるキャリア形成のあり方を通じて、自分のことも振り返って考えてみよう、というのが正しい読み方なのかなあ。
 さて、自分のキャリアについては、どうしたものやら。

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