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2004/11/14

徹底検証 大学法人化

 ここのところ某学会の学会誌(まだ3号雑誌を超えられるかどうかは未定)への投稿締め切りが近く、ひーひー言いながら書いていたので、更新できず。ネタは修論の焼き直しなので、新規に集める資料は最近の動向を押さえる程度、最小限でいいのだけれど、一応もう一度原典に当たっておこう、などと思ったらなかなか進まずに苦戦。blogで書くから気を使わない、というわけでもないのだけれど(著者にチェックされたりする可能性は0ではないからなあ)、やっぱり、論文に比べると気楽でほっとするなあ。
 さて、前置きはこのくらいにして、読み終った本が溜まっているので、少しずつでも片づけないと。まずは中井浩一『徹底検証 大学法人化』(中央公論新社中公新書ラクレ, 2004)から。
 おそらく、国立大学の法人化によって、制度がどう変わったのか、ということを詳細に知りたい人は、もっと別の適当な本があるのかもしれない。bk1の書評でも、事実関係の記述についていくつか突っ込まれていたし。
 ただ本書の魅力は、そういうところにはないような気がする。
 国立大学の法人化が必要だ、というような議論はいったいどこから始まったのか、どれだけの人が認識しているだろうか。本書を読んで、そうか!、と膝を叩いた人は自分一人じゃないと思う。なんと、あの大学紛争から始まっているのだ。
 大学紛争というと、安田講堂に立てこもってわーわーっ、というあれである(当事者だった方、てきとーな説明ですみません)。あの時、大騒ぎだったのは東大だけではなくて、多くの大学で、大学はいかにあるべきか、という問題も提起されていた。いたのだけれど、実際には、あれで変わった大学はほとんどなかったのも事実。あれが原因で、教授への道を閉ざされた優れた研究者が何人もいたことを考えると、何ともいえない話なのだけれど……。
 唯一の例外ともいえるのが、まったく新しいコンセプトの下に構想された国立大学、筑波大学だった。正直、この経緯はまったく知らなかったので、おお、なるほど、と思わず納得。しかも、本書によれば、法人化の際に行われた論点の大部分が、筑波大学の時に出尽くしていたという。そして、その筑波ですらうまくいかない、ということが明確になってしまったことが、法人化の議論の底流となっていたことが指摘されている。
 こうした、歴史的な視点を提供している点が、本書の最大の面白さであり、魅力なんじゃなかろうか。もちろん、通産省・経産省と、文部省・文科省との間の綱引きとか、国立大学側の動き(特に、国立大学協議会を中心にしたもの)を、各関係者のインタビューなどをもとに語る部分も、臨場感溢れる記述で読ませるのだが、それも歴史的視点があるとないとじゃ大違い。単なるルポルタージュで終っていないのは、やはりそこだろう。
 各関係者の証言は、ある意味で、誰もがいい子になろうとしている面もあって、物足りない点もあるけれど、この時点での証言として、記録するに足るものだろう。今大混乱する現場で戦っている人たちが、後にこの原因をきっちり再検証するためにも、決定過程に関わったこうした人たちの発言は記録されてしかるべきだと思う。
 そういう意味では、10年後、もう一度価値が出てくる一冊かもしれない。

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