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2005/01/14

共有のデザインを考える

 新潟中越地震後の日常を淡々と語り続けてきた「きょうもつんどく中ココログ版」が、エントリー「勉強になりました」で終結宣言。
 表面的な経緯だけ読むと、これまでネット上で繰り返されてきた、様々な場の「終わり」の反復でしかないのかもしれないけれど、「日々記—へっぽこライブラリアンの日常—」のエントリー「語るのはおこがましいですが、あえて・・・」で指摘されていた、「被害の軽い重いによる心理的な壁」という課題は、忘れてはいけないことのような気が。
 と偉そうにいいつつ、自分が被災者の立場だったら、その理不尽さ(何しろ被災する/しない、被害が重い/軽いの差が生じた、納得できる理由なんて、どこにもありはしないのだから)に耐えられず、攻撃的にならずにはいられなくなるかもしれない。自分はそんなことは絶対しない、なんて自信は、正直、まったくなかったりする。
 それでも、語り合う場を破壊していくことよりも、場を別の誰かと共有する、ということに、今は希望を持っていたいと思う。blogの、トラックバックや、コメントといった機能って、そのために使えるものだと思うし(もちろん、喧嘩売るのにも使えるんだけど……)。
 まあ、実際に関東で大地震が起きたときには、そんな希望は簡単にふっとんでしまうのかもしれないけれど、今はまだ、せいぜい強がっておきましょう。

 というわけで本題。
 渡辺保史・せんだいメディアテーク編『共有のデザインを考える スタジオ・トークセッション記録』(せんだいメディアテーク, 2004)は、せんだいメディアテークで、2002年5月から2003年3月までの間、隔月で行われた、トークセッションの記録。私はオンデマンド版を購入したのだけれど(電車の中で読みたかったので)、せんだいメディアテークアーカイブのページから、PDFでダウンロードもできる。
 コーディネーター役の渡辺保史さんは『情報デザイン入門 インターネット時代の表現術』(平凡社新書, 2001)の著者。インタビュアーあるいは対談相手として、それぞれのゲストの語りを引き出していく。
 最初に登場する、西村佳哲さんsensoriumの人、というと、わかる人にはわかるかも。普通なら気がつかないことを、ふと感じるように、情報をデザインしなおして、そしてそれをみんなが思い思いの形で共有する、といったことを実践を通じて語っている。最後の風鈴が好き、という話がいい感じ。
 続く杉浦裕樹さんは、舞台監督からスタートして様々なプロジェクトのマネージャーとしても活躍、NPOの運営にも関わるという経歴を語りつつ、人と人をつなげて、一つの事業を形にしていくそのコツのようなものに触れている。一人で孤軍奮闘しているうちは駄目、という話が身にしみる。
 次に登場する前田邦宏さんは、「関心空間」の開発・運営者。「関心空間」に至るまでに関わった様々な仕事を語りながら、コミュニティの形成という問題についても語ったり。出発点はマルチメディアだったのか……。
 森川千鶴さんは、様々なプロジェクト・企画のコーディネートに関わってきた経験や、地域NPOの活動にも関わっていった過程を語りつつ、「できることをできる範囲で」「人は好きなことはただでもやる」といった、珠玉の名言が多数。
 最後に登場する辻信一さんは、スロー・ライフの人、といえば、これまた分かる人は分かるか。何でも「スロー」をつけて考えてみる、という形で次々と新しい視点を提示していくのが何とも楽しい。これからは「反」じゃなくて「脱」だ、という話に何となく共感。
 この5人(+1)のメンバーの語りがたっぷり読める上に、最終回で行われた参加型トークセッションの記録や、参加者による感想まで。何とお得な一冊。これがPDFならただとは。
 「自分事」でもなく、「他人事」でもなく、「自分たち事」。「私」でも「公」でもなく「コモンズ」。そうした、開かれた形で、共有された領域を、どうやって作り出していくのか。そして、そのとき、公共施設という場はどのような役割を果たすことができるのか。そういったことを考えたことのある人であれば、何かしらの刺激を得られるんじゃないだろうか。
 新しい形の公共空間として作られたせんだいメディアテークだから、というのではなくて、例えばどんな図書館であっても、情報や知識やあるいは本そのものを共有する場としてもっと生きたものにしていくためのヒントが、きっと隠れていると思う。
 たとえ直接的ではないとしても、図書館(でなくても何か自分が関わっている場)が、人と人の間の壁を低くするためにできることが、きっとあるはずだ、と思っている人はPDFでちょっとだけでも試し読みを。少しだけかもしれないけれど、元気とのん気が出てきます。

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