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2005/02/28

モンテ=クリスト伯

 ようやく、アレクサンドル・デュマ著,泉田武二訳『モンテ=クリスト伯』(講談社Super文庫, 1990)を読了。時間かかったなあ。でも、久しぶりに読み返してみて、やっぱり面白い、と再確認。
 アニメの『巌窟王』は、中盤からどんどんオリジナルのストーリーになっていっていることもわかったし。そういう意味では、原作を読んでもネタバレにはならないかも。ただ、設定や人間関係については、原作を踏襲している部分が結構ある。あのネタは生きてるってことは、あの人とあの人はああで、ということは、だから、うわあ、そんなことを、うひゃー、という感じの(どんなや)ネタばらし的な部分はあるかもしれない。
 『巌窟王』は、実にうまいこと原作の物語を組み替えているのだけれど、その一方で、原作の要素もこれまた見事に取り込んでいる。あの部分を変えると、ここが使えなくなるんだけど、そっちに話をもっていくことで、あれは回避して、とか、何の説明にもなってないが、まあ、そんな(だからどんなや)感じ。企画段階の試行錯誤の過程とか、ちょっと知りたい気もする。
 ちょっと邪道かもしれないけれど、『攻殻機動隊S.A.C.』が、士郎正宗の原作にある要素を取り込んで作品世界に厚みをつけているように、『巌窟王』も原作の要素を小まめに使っていて、重箱の隅的な楽しみ方もできたりもする、というのが、原作を読んでよくわかった。やっぱり、DVD欲しくなってきたなあ。初回版、まだあるんだろうか。
 で、原作の『モンテ=クリスト伯』に話を戻すと、いろんな訳・版が出ているけれども、とにかく、何でもいいから全訳版を読むべき(入手しやすいのは岩波文庫版かな?)。ストーリー展開が結構派手なので、抄訳やダイジェスト版でも、多分、楽しめるんだと思うのだけれど、主要なストーリーの脇にくっついている枝葉の部分があるとないとでは、かなり印象が違ってくるはず。その枝葉の部分に惜しげもなくアイデアをつぎ込んでいるところが実にいいのだな。そこだけ膨らませば別に一本話書けるだろ、というネタが次から次へと繰り出されてきて、この時期(1845年前後)のアレクサンドル・デュマがいかにノっていたかが、よくわかる。初出が日刊紙連載というのが、またすごい。読者が熱狂するのも当然だよなあ。その上、『三銃士』というか、『ダルタニャン物語』も同時期に書いているんだからとんでもないとしか言い様がない。
 内容については、ネタバレになるのであまり書けないが、伯爵が移動する際のスピードが、伯爵が人を魅了していく際の一つのポイントになっていたり、腕木の上下を使った信号機による長距離情報伝達システムが舞台装置の一つとして使われたり、「近代」の力が伯爵の活躍と強く結びつけられている、というところが、一つのポイントかもしれない。最後はキリスト教的な道徳話が出てきたりするのだけれど(「モンテ=クリスト」という名自体、「キリストの山」(=ゴルゴダの丘?)という意味だったりするし)、それ以上に、近代的なイメージ(特にスピードと時間の正確さ)が持つ魅力、というのが大きかったのではないか、という気がする。どう読んでも同性愛ネタとしか思えないエピソードも出てきたりするのにも、驚いたし(ただし、女性間の、だけど)。卒論レベルなら、この一作だけでも、近代文化論が何本か書けるんじゃなかろうか。娯楽小説としても一級品だけれど、実は、様々な読みにも耐える作品なのかもしれない。

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