季刊・本とコンピュータ 2005年春号
『季刊・本とコンピュータ』2005年春号(発行:大日本印刷 発売:トランスアート, 2005)をちょっと前に読了。
これで終刊まであと1号を残すのみとなった。今回の特集は「出版再考 このままでいいのか、わるいのか。それが問題だ!」。というわけで、出版を巡った議論が展開されている。
この特集については、「ひつじ書房房主の日誌」の「2005年3月8日 「出版再考このままでいいのか、わるいのか。それが問題だ!」という特集」での「どうも大状況として語ることには白けて」しまう、という批判(?)が、結構的を射ている気がする。
巻頭の討論「出版再考 日本の出版業は、このままでいいのか、わるいのか?」は、紀田順一郎・鷲尾賢也・佐野眞一・小田光雄・永江朗という錚々たるメンバーなのだけれど、なるほど、こういう見方は新鮮、といった感じはあまりない。まとめの特集だから、しかたないのかもしれないが。
それに、インターネット関連についての論考が、事実上、枝川公一「〈パブリッシュ〉としてのインターネット」での、WAVEtheFLAGを巡る実体験を通じた議論しかない、というのは、ちと寂しい(あとは、津野海太郎「自動翻訳とデータベース 私の週間日記」で、自動翻訳による東アジア圏の交流の可能性が若干論じられている)。確かに、電子本は連戦連敗という感じではあるけれど、せっかくのまとめなんだから、もうちょっと取り上げてほしかったような。もしかすると、次でやるのかな?
結果として、いわゆる大手出版社とは別の場・形態での出版活動関連の記事が、印象に残ることに。
植田実「メセナ的出版になにができるか』は、鹿島出版会や住まいの図書館出版局(後者は積水ハウスが関連)といった、企業が関係した出版活動に関わった(ている)経験から、その限界と可能性(と面白さ)について、語っている。
辺見じゅん「私はなぜ「小さな本屋」をはじめたのか(インタビュー)」は、角川源義の娘であるインタビュイーが、幻戯(げんき)書房という小出版社を始めた経緯を語る一編。実は、父親の出版思想を最も忠実に受け継いでいるように思えてくるところが、何とも面白い。最初の本の帯に入れた「著者は種おろしであり、出版者は苗をそだてる人、書店は摘みとった糧(かて)をひろく播き、古本屋と図書館は刈り入れて、整理し、保存する人である。そして読者によって世界の貌(かお)は変わってゆく」という言葉がいい。
四釜裕子「ミニマム出版でいこう 自主制作本の作り手たち」は、通常の商業出版とも、いわゆる自費出版とも異なる、新しい出版形態、自主制作本を巡る最近の動向をレポートする一編。MacPower2005年4月号でも紹介されていた、「d long life design」(そういえば、東京都現代美術館のミュージアム・ショップでも売ってたなあ)などが取り上げられている。
それと、特集外の連載、山崎浩一「雑誌のカタチ エディトリアル・デザインの系譜 第7回 小学館の学年誌 平面を立体にする「お家芸」」は、誌面の分析は物足りない気がするけれども、小学館の学年誌編集の、熱い現場リポートとして一読の価値あり。この連載も、あと一回で終わりか……。
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