戦後名編集者列伝
桜井秀勲『戦後名編集者列伝 売れる本づくりを実践した鬼才たち』(編書房, 2003)を読了。
戦後の出版界を支えてきた各出版社を代表する名編集者を、各社一人ずつ取り上げて、その生涯と業績、成功の秘密を、同じく編集者であった著者(『女性自身』などの女性誌の編集長を歴任)の視点から語る、という一冊。『図書館の学校』の連載の単行本化だが、最後の一節は書き下ろしだし、若干の書き直し部分も含んでいたりする。
可能な場合には、直接本人に取材して話を聞いているとのこと。情報源が明らかでない話が多いので、出版史研究の参考文献に使おう、という人には、ちょっとつらいかもしれないが、取り上げられている編集者の人間らしいエピソードがふんだんに取り上げられていて、読み物としてはとっつきやすくて面白い。
光文社(神吉晴夫)、青春出版社(小沢和一)、KKベストセラーズ(岩瀬順三)、祥伝社(伊賀弘三良)、サンマーク出版(植木宣隆)、三笠書房(押鐘冨士雄)、幻冬舎(見城徹)といった具合に、いわゆる一般書のベストセラーを数多く出している出版社の名編集者が多く取り上げられているのが特徴。岩波、みすずといった人文書(著者の言葉を借りれば「良書」)出版社はとりあげられていない(唯一の例外は筑摩書房を再建した布川角左衛門)あたりに、著者の考える「名編集者」のあり方が窺える。
他にも、ジャンプ王国を築いた集英社・長野規、少年マガジンの講談社・内田勝あたりが興味深かったりしたけれど、個人的には、内部的には組織として崩壊しつつあった『中央公論』をかろうじて支えた中央公論社・粕谷一希のエピソードについつい思い入れてしまう。踏ん張りどころで踏ん張れずにトンズラするトップ、行きすぎた平等主義により崩壊する指揮系統、その中で編集権を編集長の手に維持し、優れた書き手を発掘した……。ううむ、爪のアカを煎じて飲まなきゃいかんな。ちなみに、この粕谷一希という人は、中央公論社を40代後半で退社、その後は、『東京人』を立ち上げている。
まあ、『図書館の学校』連載としての意図を考えると、戦後の公共図書館の発展期を支えた出版物が、どういう人たちの企画によって生まれてきたのかを知るための手ごろな入門書という読み方をするのが、図書館屋的には正しいか。本はほっといても勝手に生えてくるものではなくて、誰かがその本(雑誌も)を作り出そうとしなければ生まれない、ということを、ちゃんと知っておくためには、いい本ではないかという気がする。
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