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2005/03/13

虚飾の愛知万博

 どうも色々なことが重なってしまい、更新できず。読むのは読んでいるのだけれど……。
 というわけで、読みやすかったものから、順次、感想を書くことに。まずは、前田栄作『虚飾の愛知万博 土建国家「最後の祭典」アンオフィシャルガイド』(光文社Kobunsha Paperbacks, 2005)。

愛知万博中止の会
愛知万博(愛地球博、日本国際博覧会)の失敗を静かに見守るサイト

といった、愛知万博に批判的なサイトが、Googleで「愛知万博」を検索した結果の上位にきてしまうことからもわかるように、この万博には、どうも何かおかしいのではないか、といったイメージがつきまとう。最近、NHKだけではなく、各民放も、やたらと愛知万博を宣伝し始めているのだけれど、正直、ちょっとすっきりしない感じだった。
 というわけで、本書を読んでみたわけなのだけれど、なるほど、これは確かにおかしいかもしれない。要約するとこんな感じ。
 愛知県で万博を開こう、そして会場を、海上の森(かいしょのもり)にしようとした元々の発想は、そこを住宅地として開発することにあった。そこには、元知事やその関係者による土地の買い占めなどの動きもあり、利権が絡んでいた可能性もある。しかし、その後、万博の開催そのものが目的化していった結果、国際的な自然保護の動きの中で、多くの固有種が住む里山が残る海上の森を開発で潰すとは言えなくなってしまい、「自然の叡知」をテーマに加えて自然保護を看板に立てざるをえなくなる。この結果として、開発は(表立っては)できないし、かといって、自然保護をテーマに人を呼べるイベントや施設を作ることもできず、地域の住民や自然保護団体とも軋轢を起こし、しかも、経済的に美味しいところは全部東京の企業にもっていかれてしまい地元企業も元気なし、という状態に……。
 ある種スキャンダラスな視点から、社会的な問題を提起する本をぽこぽこ出している、Kobunsha Paperbacksらしい、というか、ならではの一冊、という感じ。今、こういうネタを正面切って出せる大手出版社はちょっとないような。
 著者の問題提起のポイントは、この万博をめぐるゴタゴタを、「土建国家」日本が抱えた矛盾が噴出したものとして描き出しているところ。他人事だと思って面白がっているかもしれないが、実は大なり小なり、同様の状況に陥っている自治体は多い、だからこそ、問題をよく知るためにも、今、愛知万博に注目すべきなのだ、といった問い掛けが、本書では繰り返されている。単なる愛知万博潰しではなく、愛知万博を透かして見える日本の現状を掘り下げようとした、というところか。
 それにしても、この万博を巡る愛知県と万博協会の右往左往ぶりは、ヘルガ・ドラモンド『プロジェクト迷走す ビッグバン〈トーラス〉システムの悲劇』(日科技連出版社, 1999)で提起されていた、「意思決定エスカレーション」を思わせる。部分部分で見れば誰もが合理的な決定を行っているのに、全体としては間違った方向にどんどん進んでしまい、止めた方が全体として損害を小さくできるプロジェクトを誰も止められなくなってしまう、という状態を、「意思決定エスカレーション」と呼ぶ(実際には、こんなにいい加減な話ではなくて、もっとちゃんと定義されているので、詳しくは前掲書を参照のこと)のだけれど、正にそんな感じ。
 ぜひ、事務局である財団法人2005年万博博覧会は、全ての文書(メモ、内部資料等も含めて)を保存しておいてくれないものか。何だったら、公開は20年後とか30年後でも構わない。この万博を巡って起こったことは、全ての組織(特に、いろんな団体から寄せ集められた混成組織)において、貴重な教訓となるはずだ。本書で書かれていることが全て事実なら、恐らく、万博が終了した途端に、全ての資料を廃棄した方がいい、と関係者の方々は思うのだろうけれど、何とかして遺してもらえないものだろうか。無理かなあ。

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