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2005/04/03

美術館商売

 安村敏信『美術館商売 美術なんて…と思う前に』(勉誠出版智慧の海叢書, 2004)を少し前に読み終わっていたのだけれど、感想を書きそびれていた。
 著者は、板橋区立美術館の学芸員。以前、「これであなたも狩野派通!」の感想を書いたときに、妙に楽しい解説(というかコメントというか)のことをちょろっと書いたのだけれど、本書によって、その仕掛け人が著者であることが判明。なるほど、自分自身の考えや意見を率直に述べたり、切れ味鋭く現在の美術館業界の状況を語ったりするあたり、あの解説の人か、という感じで思わず納得。
 美術館という場に、どう人を呼び込むのか、そして、来てくれた人たちに、どう楽しんでもらい、さらに関心をもってもらうのか、自らの実践も絡めながら、具体的に解説する、という一冊。コレクションの構築から、展覧会の企画、宣伝、展示レイアウトや解説などなど、美術館体験を楽しく盛り上げていくための様々な試みが、てんこ盛りである。
 「美術館の「ためになる」は、学校での成績が上ったり、お金儲けが出来たりという実利的な面は全くないだろう」(p.151)ということを前提とした上で、一見、無駄なものに思える美術館での美術との出会いをいかに豊かなものにしていくのか、現場での試行錯誤が語られていく。
 著者の担当分野が日本美術ということもあり、もともとは生活の中で使われ活かされてきたものが、現在はケースに押し込められ高尚な作品として位置づけられてしまっている、という問題意識が、様々な試みに結びついていく。ガラスケースに入れずに直接作品を間近で見られるようにするとか、作品を傷める可能性と背中合わせだったりすることでも(そもそもただ展示するだけでも、作品は少しずつ傷んでいくのだが)、挑戦したりもしている。
 展示と保存のバランスをどうとっていくのか、見にきてくれる人たちと展示されているモノとの距離をどう縮めていくのか、というのは、図書館でいう、利用と保存のバランスをどうとっていくのか、という問題と共通する問題かもしれない。そもそも、見せ方が全然違うので、やり方を直接真似できるわけではないけれど、考え方、というか思想のレベルでは、図書館などの他の文化機関でも参考にできる部分があるような気がする。
 そういえば、図書館でも、展示を行ったりするけれども、展示を見る、という体験を豊かにするための仕掛けについては案外無頓着だったりするような。そういう意味では、美術館に関心のある向きだけではなく、何かを展示して見せる、ということに関係する人全てに参考になる一冊かもしれない。

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