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2005/04/23

将軍のアーカイブズ

 先日、仕事帰りに国立公文書館「将軍のアーカイブズ」展(会期:2005年4月5日〜4月24日)を見に立ち寄った。展示会については、木・金のみ8時まで開館(他の曜日は5時まで)、というのはなかなかいい作戦では。
 今回の展示は、内閣文庫所蔵の紅葉山文庫旧蔵資料のうち、特に、家康、吉宗、綱吉といったメジャーな(?)将軍関連の資料を中心に紹介する、というもの。
 例えば、家康周辺では、秀頼版『帝鑑図説』、直江版『文選』、伏見版『貞観政要』、駿河版『群書治要』といった、幕府成立前後の出版事業の成果や周辺の関連資料が。これはおいしい。
 漢籍関連では、吉宗の時代を中心とした漢籍輸入関連の記録類や、中国では失われた明・清代の地誌(いわゆる佚存書、というやつですな)など、渋いセレクション。
 で、個人的に一番印象に残ったのは、実は、青木昆陽が関わった資料だったりする。各地に伝来する古文書の写し(というよりは複製に近い)である『判物証文写』『諸州古文書』や、様々な金・銀・銭の考証と図解を集めた『国家金銀銭譜』といった資料を見て、サツマイモ栽培を幕府に進言して取り立てられた「甘藷先生」であり、蘭学の先駆者という自分が持っていたイメージと全然違う側面を見せられてびっくり。
 週末になって、自分の青木昆陽についての情報源、木村陽二郎『日本自然誌の成立 蘭学と本草学』(中央公論社自然選書, 1974)をひっくり返してみた。すると、青木昆陽は、商人(魚問屋)の出身だったとか、伊藤東涯の門下で古義堂で学んだとか、全然頭に残っていなかったことが次々出てくる出てくる。
 昆陽が借りていた借地の地主の親戚に、大岡忠相(大岡越前ですな)の部下がいて、その人(加藤枝直)の骨折りで、飢饉の折りに昆陽の書いたサツマイモの栽培法に関する書物(『蕃藷考』『甘藷記』)が大岡忠相ルートで吉宗まで届き、取り立てられるきっかけとなった、とか、吉宗に勧められてオランダ語を学んだといわれているが、実はそうではなく、自分の興味からオランダ語の学習を進めていた、とか、色々知らない(というか、忘れていたというべきか)ことばかり。展示解説にも登場していた深見有隣(『大清会典』や、漢訳洋書の和訳に関わった)が吉宗に最初にサツマイモのことを吹き込んだ(?)とか、そんなエピソードもあったり。
 その上、昆陽による古文書調査(その時点で寺社奉行だった大岡忠相に命じられた、という記述になっているが)の話も、ちゃんと書いてあって愕然。いったい何を読んでいたのやら。
 ところで、この『日本自然誌の成立』を読むと、展示解説ではあまり書かれていない(まあ、字数が限られているからなあ)、大岡忠相の果たしていた役割がなかなか印象深かったりする。吉宗周辺の知的ネットワークの中枢(の一つ?)に大岡忠相がいて、青木昆陽もそのネットワークの中で活躍していた、ということらしい。
 ちなみに昆陽の晩年の弟子が、『解体新書』翻訳に大きな役割を果たした前野良沢だったりして、この知のネットワークは、江戸における蘭学・洋学の発達にもつながっていくのだった。
 うーむ、蘭学と本草学の流れでしか、このあたり捉えてなかったけど、もう少し広い分野横断(というか分野無関係)的な枠組みで見ると、めちゃめちゃ面白い話になりそうだなあ。誰かそのあたりのことを書いてないものか。
 ところで、「将軍のアーカイブズ」っていうタイトルなのだけど、図書館屋的には「将軍の図書館」だよねぇ。まあ、公文書館だからそうなるんだろうけど……。

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