ホンネで動かす組織論
太田肇『ホンネで動かす組織論』(筑摩書房ちくま新書, 2004)を読了。
公務員批判をする側は、公務員がいかに駄目かを指摘しつつ、その一方で、公務員の待遇を下げたりしても国民・住民に対するサービスは低下しない(どんなに叩かれても公務員はまじめに働く)ということを実は前提にしている、という話が、公務員の端くれとしては、やたら面白かったりするのだが、もちろん、本書の趣旨はそういうところにあるわけではない。
かつては、会社としてのタテマエ(お客様第一、とか)とホンネ(やっぱり儲けが第一、とか)、働く側のタテマエ(会社に忠誠を、とか)とホンネ(出世すれば元がとれる、とか)が、それなりにうまく回っていた。しかし、今は、会社側はタテマエ(業績で評価)をホンネ(人件費削減)のために使い、働く側もタテマエ(会社に尽くします)をホンネ(首になるよりぶら下がっておいたほうが得)のために使う状況になってしまっていて、これでは、効率も上がらないし、やる気も出るわけがない。
だから、これからは、ホンネを基礎とした働き方の再構築が必要なのだ、というのが本書の趣旨、という具合。
具体的な提案としては、例えば、組織で仕事をするのではなく、仕事の成果について個人の名前を公開していく、そのオーブンにされた成果を評価のベースにする、といった、実践に基づく提案がなされている。基本的には、客観的、つまり、誰もが検証できる基準に基づいた成果主義、というのが必要、というのが著者の主張だ。(先日紹介した、『学士会会報』No.851の、渡辺穰二「日本の中の非効率:「人基準」から「仕事基準」へ」と基本的な発想は同じだと思う)
というと、今はやりのことをただ繰り返しているだけにみえる。正直、ホンネとタテマエの乖離を分析する前半はなるほど、という感じで読ませるものの、結論そのものにはあまり新味がないような気がしてしまう。とはいえ、bk1(リニューアル、成功してよかったよかった)のオリオンさんの書評のような評価もあるので、働く側にとっての働くことの意義をどう回復するのか、という視点を中心にして読むべきものなのかもしれない。管理する側の視点だけではなく、働く側にとっても働く喜びを回復するための処方せんとして、ホンネによる働き方の再構築が必要なこととしているところが肝か。
とりあえず、個人の名前を仕事の成果とセットで外に出していく、というのは、組織を変える一つの方法かもしれない。でも、自分のやったことがどんどん剥き出しになっていくことに、人は本当に耐えられるのだろうか、という疑問も浮かぶ。いわゆる「引きこもり」とか「ニート」とか呼ばれて、社会的・政治的「対策」の対象にされている人たちは、自分の名前を前面に出して仕事をする、ということについて、どのように感じるのだろうか。やりがいを感じるのだろうか、重荷と感じるのだろうか。
マネジメントする側の立場としては著者の主張に共感しつつも、マネジメントされる側の立場としてはどこかひっかかってしまう。うーむ。
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