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2005/06/18

僕の見た「大日本帝国」

 「歩行と思索」のエントリー「僕の見た「大日本帝国」を読んで以来、ずっと気になっていた、西牟田靖『僕の見た「大日本帝国」 教わらなかった歴史と出会う旅』(エビデンス・コーポレーション株式会社情報センター出版局, 2005)を先日読了。
 実は、手元にあるのは初刷。買うだけ買って積んでおいた一冊だったりする。著者のブログ「斜め下45度から」については、以前、ちょっとふれたことがあったけれど、特にその後ちゃんとフォローはしていなかったこともあって、本書を店頭で見た時、あれ? 何だか似たようなことを書いてる人がいるなあ、と思って購入。後で確認したら当人の本だったという。さすがにこんなことをやっている人は、そうそう何人もいなかったか。
 本書は、かつて大日本帝国の版図だった地域(樺太・台湾・朝鮮・南洋群島・満洲)を巡って、日本人が残してきた足跡を探し歩いた著者の旅行記だ。朝鮮半島から樺太に渡り、戦後はソ連領となった地域に行き続ける人たちと出会い、台湾で日本の軍人としての誇りを日本語で語る老人の話を聞き、韓国では日本人への怒りを韓国語でぶつけられ、北朝鮮では改変された歴史の跡をかすかにさぐり、中国東北地方では今も使われる日本の建物を訪れ、南洋群島(ミクロネシア)では再建された神社に驚く。そうした出会いの過程を、若干の写真とともに語る一冊。
 最初は偶然の出会いだったものが、徐々に事前の文献調査をした上での取材になっていくのだけれど、もちろん調査レポートでもないし、歴史書でもない。むしろ、当時を知る現地の人たちが、今、日本をどう語っているのか、当時をどう思っているのかや、当時の日本が作った建物などが、今どう扱われているのか、それを体当たりで感じていく部分が中心。もちろん、体当たりしたからといって、全てを理解し、つかむことができるわけではないのだけれど、それを自覚した上で、体当たりしていくあたりが、何ともいい感じ。
 一歩間違えば、非生産的な思想戦に巻き込まれかねないテーマであるにもかかわらず、著者の身のこなしは見事で、どちらからとも絶妙の距離感を保っている。どちらの立場に立っていようがいまいが、とにかく、あの時代のことを、全部なかったことにしたり、一面的なレッテル貼りだけで済ますのだけは勘弁してほしい、と思う全ての人にとって、貴重な一冊だと思う。
 個人的には、ミクロネシア編(南洋群島)が、知らないことが多かったこともあって、新鮮だった。戦前の資料(小説を含む)に、妙に「南洋」という言葉が含まれているものが多いような気がしていたのだけれど、何となく納得。ついつい、東アジアにばかり目がいってしまうけれど、戦前期日本における南洋群島の位置づけを甘く見てはいかんなあ。
 姉妹編のビジュアル版の刊行も決まったそうで、こちらにも期待。

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コメント

突然失礼いたします。『僕の見た「大日本帝国」』の著者、西牟田靖と申します。ご紹介賜りありがとうございました。
お忘れかも知れませんが、このたびようやく、姉妹篇『写真で読む 僕の見た「大日本帝国」』を刊行のはこびとなりました。前作をお読みいただいた読者のみなさまから寄せられた「もっと写真が見たい」との声に応えるべく、未公開の写真約400点(うちほぼ半数はカラー写真)を掲載し、新たなエピソードを全編書き下ろしたノンフィクション作品です。不躾とは思いましたが、ぜひご高覧いただきたくご案内申し上げました。なお、全国発売の開始は2月23日ですが、都内では、紀伊国屋書店新宿本店、ブックファースト渋谷、八重洲ブックセンター、リブロ池袋の各店舗にて、2月11日頃より先行販売を実施いたします。書店店頭にてお手にとっていただければ幸いに存じます。末文ながら、ますますのご健勝ご活躍を祈念しております。

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