日本の植民地図書館
加藤一夫・河田いこひ・東條文規『日本の植民地図書館 アジアにおける日本近代図書館史』(社会評論社, 2005)を読了。
何というか、困ったなあ。
樺太・台湾・満洲・朝鮮・中国・南方と、日本の旧植民地・占領地域における日本人、というか内地人(という言い方ってあるのかな? 台湾の人とか朝鮮の人とか、当時、国籍的には「日本人」だったはずなので、何と表現したらよいのやら)による図書館活動が行われた地域は一通り押さえている。これだけの地域について、まとめて記述した、というだけでも、偉業といってよいと思う。
記述は網羅的というよりは、各地域の代表例(というか、資料の発掘や研究が進んだ領域)を中心にしたものでしかない、とか、安易に戦争責任論を振りまわすのはいかがなものか、とか、いろいろ突っ込みどころはあるのだけれど、まあ、それはある程度許容できるし、読む時に割り引いて読めばよい。
困るのは、参考文献が最後にまとめられてはいるものの、どこまでが先行研究から引っ張ってきた話で、どこからが著者らが同時代資料から読み解いた部分で、どこが著者らの意見なのかが、よくわからないことだ(建国大学の図書館が「重要な役割を果たしていた」(p.256)って、一体誰がどのような根拠に基づいてそう結論付けているのか、本気で知りたいのだけれど、よくわからなかったりする)。
今後の研究の入口となるべき入門書として書かれたものとしては、これはあまり良いことではないのではなかろうか。通説がまだない領域なだけに、一つ一つ研究の蓄積を積み上げていくことが必要なのだと思うのだけれど。まあ、文句言わずに参考文献全部読んで自分で考えろ、ってことなのかもしれないが……。
他にも、GHQ/SCAP資料なんかも使っているけど、この引用の仕方では根拠となった文書の特定はなかなか大変そうだとか、資料がないからって小説を鵜呑みにするのはいかがなものかとか、ああ、もったいない……という点がついつい目に付いてしまうのも、なんとも困る。その上、これだけ広範な人物と事項について論じているのに、索引がないというのがまた困る。
と、ごちゃごちゃと文句をつけてしまったけれど、こういう本が出版されるということ自体が、やはり画期的。できれば、もっと、活用しやすくて、戦争責任論全開じゃない書き方をする本であってくれると、個人的にはうれしかったのだけれど。
ん? でも、もしかして、これが売れてくれると、入手が難しいものが多い、河田いこひ氏の既発表論文の単行本化とか、そういう話もありうるのかなあ。ううむ、もっと褒めておけばよかったか。
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