物語大英博物館
そういえば、ここのところ、まともに本の感想を書いていない。まったくもって、看板に偽りありだ。
とりあえず、相変わらず通勤電車の中で本を読んではいるので、ネタの蓄積がないではないはずなのだけれど、一方でどんどん感想を忘れていってしまうので、あんまり蓄積されていなかったりする。
まあ、とりあえず、久しぶりにちょっとだけ。あんまり褒めない感想で何なのだけど、自分の問題意識のメモ代わりとして、書いておくと後で思い出すきっかけになりそうなので。
出口保夫『物語大英博物館 二五〇年の軌跡』(中央公論新社中公新書, 2005)は、評価しにくい一冊。大英博物館(The British Museum。それにしても、いつまで「大英」と呼び続けるんだろう、という話をどっかで読んだような。どこだっけ)の歴史を、代表的ないくつかのコレクションを構築した人物を中心に概観した一冊。
といいつつ、大規模な改装によって甦ったReading Roomから語り起こしたり、図書館と一体だったころに通い詰めた著者の思い出話がひょっこり出てきたりと、大英図書館に関する言及もちらほら。
が、英国の国立図書館史への目配りや、19世紀に分離した自然誌コレクションについての記述は、正直物足りない感じもする。主役は、現在の大英博物館なのだから、あまりその辺をいってもしかたないのだけれど。
それよりも、本書を読んでいて気になるのは、大英博物館に収蔵されている文化財の価値が、無条件に高いものだとしているように読めてしまうことかもしれない。それほど話は単純ではないだろうと、ついつい思ってしまう。文化財が貴重であることが、普遍的なことであるなら、日本の博物館・美術館は、今のような苦しい状況に追い込まれてはいないはずだ。むしろ、何故、貴重なモノとして社会的に認められていったのかをこそ、語ってほしいのだけれど……。あそこにあるモノが文化財として価値あるものと見做されるに至るには、もっともっと紆余曲折があったんじゃなかろうか。
もちろん、入門的なガイドとして書かれた本書に、そういった観点を求めるのはお門違いなのかもしれない。しかし、どうにも物足りなさが残ってしまった。
また、最近話題(?)の、ギリシャからの返還要求とか、掠奪品を返せ、といった運動については、著者は批判的、というか、そもそも掠奪じゃない、という主張を、本書のそこここで(若干遠回しに)表明している。むしろ、そのあたりの話を正面から書いていてくれれば、より論争的で面白い本になったような気も。あとがきで「本書が扱うテーマと次元を異にする問題」であるとしているけれど、本当にそうなんだろうか。
あ、あと、人名と団体名は原綴をどっかに書いておいてほしかった。王立学士院って何だっけ? と思ったら、The Royal Societyのことだったとか、若干訳語で戸惑うことが。原綴の表記がないと、本書を片手に大英博物館に行く人が困るんじゃないかなあ。
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