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2006/02/13

新版 図書館の発見

 色々ありすぎて、ブログの更新まで手が回らず。なんだかなあ。
 前川恒雄・石井敦『図書館の発見 新版』(日本放送出版協会, 2006)は、なんともコメントが難しい。
 とりあえず、

書物蔵(しょもつぐら): 前川氏はふつうの人だった…
http://d.hatena.ne.jp/shomotsubugyo/20060126/p1

愚智提衡而立治之至也: 人生の夕映え
http://jurosodoh.cocolog-nifty.com/memorandum/2006/02/post_13f2.html
愚智提衡而立治之至也: 人生の夕映え:追記
http://jurosodoh.cocolog-nifty.com/memorandum/2006/02/post_4882.html

で、論じられるべきポイントはほとんどおさえられているのではなかろうか。
 というわけで、私ごときが上の各エントリーに付け加えられることはあまりないのだけれど、あえていうとすれば三点。

 まず、一点目。
 著者ら(まえがきによれば、事実上、前川氏の単著に近いようだが)は、本の力や価値を言葉の上では称揚しているのだけれど、どういうわけか本書を読んでも、図書館についての本を読んでみようという気が起きないような作りになっている。不可思議。
 書物奉行さんが「反知性主義」という言葉を使っているけれど、むべなるかな。どう読んでも現場主義で体験主義としか思えない……って、それなら本なんていらないじゃん。図書館の運営そのものには図書は役に立たない、という立場を取りながら、人には本を読むことの素晴らしさを訴えるという不可解さに、正直、とまどう。

 二点目。
 雑誌と新聞がほとんど無視されているのは、どうしたことだろう。電子メディアを批判するのはまだいい。しかし、社会的・政治的な問題について考えるためには、雑誌と新聞は不可欠じゃないんだろうか。そりゃ、貸出ししにくい資料だけどさ……。
 で、以下、思い付き。戦後の公立公共図書館において、雑誌・新聞のバックナンバーのコレクションが今一つ発達しなかった原因は、索引が発達しなかったことや、欧米と異なりマイクロフィルムによるバックナンバー販売がさほど普及しなかったことなど、様々な要因があるのだろうとは思う(どっちが原因でどっちが結果か、という気もするけど)。それだけではなくて、もしかして、貸出数増を優先する戦略が強調されてきたことと、関係があるんではなかろうか。
 ……といっても、実証するのは難しいか。建築設計の話からアプローチするとか、駄目かな?

 最後の三点目は、1960年代の前川氏のイギリスにおける研修経験について。
 誰かが、このことについて、ちゃんと検証すべきだ、と書いていたのを読んだことがあるような気がするのだけれど、思い出せない……(請う、ご教示)。残念ながら、本書でも、「私がイギリスで学んだことは多すぎて、とてもここには書ききれない」(p.165)と、具体的なことはあんまり書いていないのだが、この書きっぷりからも、1960年代のイギリスの公共図書館が前川氏に与えた影響の大きさがうかがえる。
 アリステア・ブラック・他著/根本彰・他訳『コミュニティのための図書館』(東京大学出版会, 2004)をひっばり出してみると、英国では、1964年に公共図書館法(Public Libraries Act)が整備され、「これによって初めて、公共図書館の設置が地方自治体の義務となり、コミュニティのあらゆる階層に包括的なサービスを提供することが規定された」(p.36)という記述が出てきた。ここから想像するに、前川氏は、法制度の整備が進む英国の図書館界の空気を瞬間冷凍して日本に持ち帰ってきたのではなかろうか。前川氏の理念の原点(の少なくとも一つ)が、ここにあるのではないか、という仮説を立てられそうな気がする。誰かちゃんと調べてくれないものか。

 といった具合に、色々なことを考えさせる一冊ではある。が、図書館について最初に読む一冊としては、まったく勧められないのであった。うーむ。

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コメント

 トラックバックありがとうございます.過分なご紹介,畏れ入りますm(_ _)m

> 誰かが、このことについて、ちゃんと検証すべきだ、と書いていたのを読んだことがあるような気がするのだけれど、

 多分,「図書館界」56巻3号(2004)掲載の根本彰「貸出サービス論批判:1970年代以降の公立図書館をどう評価するか」じゃないでしょうか?

> 多分,「図書館界」56巻3号(2004)掲載の根本彰「貸出サービス論批判:1970年代以降の公立図書館をどう評価するか」じゃないでしょうか?

 なるほど! 言われてみれば、根本先生っぽい気がします。早速確認してみます。

根本先生のもう少し前の論文かもしれません。まだ、ここまで「仮説」を展開していなかったような……。
それにしても、当時のイギリスで、貸出サービスとレファレンスサービスが階級によって対象が分かれていた、という指摘は、考えさせられます。

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