近代天皇制と古都(と、70000)
おやおや、更新をサボっていたら、いつの間にやらカウンタのユニークビジター数が70000を超えている。しかし、全然「日記」になってないなあ。
というわけで、このまま更新しないでいるのも何なので、とりあえず書き損ねていた一冊について(といっても、一ヶ月以上更新していないので読んでから結構たってしまったのだけれど)。
さて、高木博志『近代天皇制と古都』(岩波書店, 2006)について。
奈良や京都が、関東にいたときよりもずっと近くなったこともあって、どちらも時々ふらふらするのだけれど、本書はその奈良・京都の持つ「古都」としてのイメージ(とそれを支える場所や風景、建築などなど)が、いかに近代に成立していったのかを、具体例に即して論じた一冊。
「神武陵」を中心とした「畝傍山」「橿原神宮」を合わせた地域が明治以降整備されていく過程や、「正倉院」と天皇陵を通じて日本の歴史・文化史に関する様々な概念や時代評価が文化財に投影してされていく過程を論じたり、京都御苑とその周辺の空間が近世と明治以降でどう変化したのか(これは結構、劇的に変わっていて面白い)、文化史における歴史区分(「国風文化」や「安土桃山文化」などなど)やその人気の浮き沈みが京都のイメージをどう規定し変化させていったのかを分析したり、陵墓を通じて、日本の文化財がどう二つの系統に分裂していったのか(今も文化財保護行政の対象となる一般の文化財と、皇室財産系の文化財の分裂は続いている)を論じたりする。
平安神宮くらい露骨に新しいと、こりゃ明治からこっちだよなあ、とすぐ分かるのだけれど、本書を読んでいると、古いと思い込んでいた意外なものが明治以降に整備されていたりするので侮れない。今、京都や奈良を代表するような建築や文化財が、近世のまったくマイナーだった状態から「代表」するくらいに出世していった過程や、その動きを支えた学者たちの動きを解き明かしていくあたりは、なかなかスリリングだったりも。
戦前の天皇制なんてもう現代的な問題にならない、と思っている人もいるかもしれないが、明治やら戦前やらは(古代や中世の顔をして)どっこい今も生きていたりするのだなあ。仁徳天皇陵を世界遺産に、という著者の問い(というか、呼びかけか)から浮かび上がってくる「日本の文化」の姿は、ただ「美しい」というのとは、ちょっと違うものだったりする。
堅いし、読みごたえがありすぎるかもしれないけど、大人の修学旅行の副読本としても、ちょっといいかも。
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