河野有理 編『近代日本政治思想史 荻生徂徠から網野善彦まで』
またえらく間が空いてしまった。
河野有理 編『近代日本政治思想史 荻生徂徠から網野善彦まで』(ナカニシヤ出版) http://www.nakanishiya.co.jp/book/b183302.html をようやく読了。途中、風邪引いたり色々調子崩したりしながら読んでたので、時間がかかってしまった。
出版社のサイトにもPDFが掲載されている「はじめに」 http://www.nakanishiya.co.jp/files/tachiyomi/9784779508783hajimeni.pdf には、「初学者にむけて、この分野の持つ裾野の広がりと、現在における研究の大まかな到達点を示す」という「狙い」が書かれているのだけど、正直「初学者」レベルたっけーな、おい、という気分になるところもちらほら。とはいえ、これからこの分野に挑戦しようとする人に対して、変にハードル下げない、というのは、学生向けだとしたら正しいのかも。
目次は、出版社のサイト http://www.nakanishiya.co.jp/book/b183302.html を参照してもらうとして、大ざっぱに言うと、特定の主題に関する同時代の複数の人物による議論を対比的に紹介することで、(1)その主題が抱える論点、(2)それぞれの人物の論が持つ特徴、(3)人物たちが置かれた時代状況、といった点を浮かび上がらせる、という組立はだいたい共通してるのかな、という感じ。ただ、どこに重点を置くかはそれぞれ論者で違う。
論者によっては、さらにそこに「通説」や先行研究との対比が加わる。例えば、高山大毅「制度 荻生徂徠と會澤正志齋」では、荻生徂徠なので、丸山眞男が召喚されたりして、日本思想史における主要な参照枠が何となくそこここに見えるようになっている……んじゃないかな。主要な参照枠自体に関する知識自体が薄いので、たぶん、だけど。
そんな感じで、色々配慮された論集なのだけれど、素人読者としては、三ツ松誠「宗教 平田篤胤の弟子とライバルたち」で、明治初期の段階での神道家たちの分裂と対立による自滅っぷりを面白がったり、河野有理「政体 加藤弘之と福澤諭吉」で、加藤弘之って結構論旨一貫してんだな、と関心したり、王前「二十世紀 林達夫と丸山眞男」で、林達夫格好いいぜ、とか思ったりするばかりなのだった。申し訳ない。他にも、尾原宏之「軍事 河野敏鎌と津田真道」での、徴兵制を巡る明治期の議論のレベルの高さにぶっとんだり、趙星銀「デモクラシー 藤田省三と清水幾太郎」で60年安保における清水幾太郎の目的達成できなきゃ結局負けだろ的な発言に共感したりと、色々楽しかった。
そういえば、長尾宗典「美 高山樗牛と姉崎嘲風」での日露戦争のように、複数の論者に共通する隠し(?)テーマとして、それぞれの時代における「戦後」というのもあったかもしれない。戦争だけではなく、安保のような広範な社会的運動や事件の後、という場合も含めると、思想史の持つ、大きな歴史的転換点に直面した人々が、それをどう受け止め、何を考えたのかを論じる学問という側面を楽しむ、という読み方もできるかも。
ボーナストラック的に入っている、河野有理・大澤聡・與那覇潤「【討議】新しい思想史のあり方をめぐって」は、ほぼ同世代の三人の論者が、どのような体験を経ながら研究者となったのかを語りつつ、現在の学問状況を論じる、という趣向。ただ、初学者用に人名・用語解説が欲しかった気が。同時代性・同世代性が強くて難易度高い……。とはいえ、日本史・日本思想史周辺の、人文系学会の現状がちらちらと見えて、やじ馬根性的には興味深かったり。2000年前後の人文系学問状況に関する証言として、後で貴重になるかも。
共通する人物や主題が複数の論考に登場することもあって、ちゃんと巻末に人名・事項索引があるのはさすが。各論考にあげられたキーワード(言語、風景、政体、美、正閏、イロニー…)に興味があったり、人名(本居宣長、阪谷素、福澤諭吉、高山樗牛、保田與重郎、山本七平…)に関心があったら、そこから拾い読みしてみるのが良いかと。ただ、「初学者向け」であって入門書ではないかもしれない。
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