日本古書通信 2015年2月号 [1027号]
日本古書通信 2015年2月号 [通巻1027号]を読了。
以下、いくつかの記事についてメモ的に。
○塩村耕「大身旗本の俳諧日記『都の伝』について」p.2-4
岩瀬文庫の悉皆調査の中心となられている塩村耕氏が、東京古典会の大市(古典籍展観大入札会か)で入手した資料を紹介。『都の伝』は、本稿によれば、江戸幕府の大御番頭であり、立羽不角門下の俳人でもある、杉浦出雲守正方(俳号は円水堂方角)が享保14年(1729)に京都在番となった際の見聞記とのこと。赴任の際の道中での見聞や、象が渡来したさいの京都の大騒ぎっぷりなど、興味深い内容が紹介されている。
岩瀬文庫で別の不角門下の俳人による俳諧紀行を実見していたことが、今回の落札入手につながったとのこと。「岩瀬文庫の恩恵は海よりも深い」という一言の実感度が凄い。
○秋山豊「本と出会うということ 漱石『草枕』引用の原点」p.7-9
『夏目漱石周辺人物事典』を話の枕にしつつ、漱石が引用した漢文のネタ元であった『宋元明清名家文鈔』にたどり着くまでの過程を語り、さらに話は、全集収録の漱石の蔵書目録に記載された同書の書写者・佐藤友熊の略歴と、友熊と漱石との交流に及ぶ。友熊は、肺病にかかった息子たちの療養のためか、千葉の海辺に住んでいた際に関東大震災による家屋の倒壊で亡くなっている。末尾「その最後を思うとき、熱いものが胸をよぎる」、とあるそのすぐ後に、編集部による「秋山豊氏は去る一月二十一日逝去されました」との記述が続く。何ということか。
ただ、仙台の文学館の漱石文庫からコピーを取り寄せた、というのは、東北大学附属図書館のことではなかったか、と思うのだが……
○川島幸希「『月に吠える』の論文 弥永徒史子さんの思い出と共に(前編)」p.10-13
牧義之『伏字の文化史 : 検閲・文学・出版』(森話社, 2014)第3章(読んでないけど)における『月に吠える』初版の内務省への納本のタイミングに関する記述に関して、多数の『月に吠える』初版本を実見してきた立場から、根本的な疑問を呈す、というスリリングな一篇。田中清光『月映の画家たち 田中恭吉・恩地孝四郎の青春』(筑摩書房, 1990)で紹介されたという、『月に吠える』の納本日付についての決定的ともいえる恩地孝四郎の日記の記述への参照がないことについて、「随所に緻密な論証を展開する牧氏が、自説と相反する重要な一次資料の存在を知っていて取り上げなかったとは思えないのだが」と、突っ込みを入れるあたりは、突っ込まれているのが自分でないと分かっていても胃が痛くなりそう。
それにしても、国会図書館本だけに依拠した議論が、出版史研究においては、いかに危険か、ということがよく分かる。
フル本こそルフ本!`・ω・´)o:「納本刷」と流布本の関係(古本おもしろがりずむ:一名・書物蔵)
http://d.hatena.ne.jp/shomotsubugyo/20150216/p1
川島幸希「『月に吠える』の論文」が出た(漁書日誌 β.ver.)
http://d.hatena.ne.jp/taqueshix/20150215/1424021760
も参照のこと。
○西村成雄「歴史家の本棚 第Ⅱ架(49)中国近代東北地域社会の鼓動をさぐる」p.14
『中国近代東北地域史研究』(法律文化社, 1984)、『張学良 : 日中の覇権と「満洲」』(岩波書店, 1996)等の著者による自らの研究史の回顧と展望。張学良との面談につながった人脈についての記述あり。
○内田誠一「短冊夜話(2)森村大朴が栗林公園を詠じた漢詩短冊」p.15
高松藩主生駒高俊が築庭した栗林荘(現・栗林公園)を題材にした、尾張藩儒・森村大朴(1812-1896)の漢詩短冊の、栗林公園を実見しての解説。詩に描かれた、レンゲソウかと思いきや、実は緋鯉だった、という鮮やかな情景が印象的。
○加納一朗「めぐりあった探偵作家の巨星たち 8 香山滋」p.20-21
戦後の混乱期からの香山滋の作品や活躍とともに、ゴジラについて紹介。何故か池田憲章『ゴジラ99の真実』(徳間書店, 2014) http://www.tokuma.jp/bookinfo/9784198638382 が紹介されている。
○「談話室」p.21
3人の常連執筆者の訃報について。2014年12月17日に中野書店中野智之氏、2015年1月21日に秋山豊氏、同1月29日に上笙一郎氏が亡くなられたとの記述。残念としか言いようがない。ご冥福をお祈りいたします。
○岡崎武志「昨日も今日も古本さんぽ 第52回 「青春18」を使って、ちょいと遠出 茨城県・竜ケ崎「リブラ」古本市
関東鉄道(常磐線佐貫駅で乗り換え)竜ケ崎駅近くのショッピングモール「リブラ」( http://www.rsc.co.jp/ )を侵食しつつある古本市についてのレポート。「学校のプールを独占で使うという気分で、古本のなかを泳いでいく」という表現がそそる。「つちうら古書倶楽部」とセットで行ってみたいが……
○木村八重子「未紹介黒本青本 55」p.30
国立国会図書館所蔵の「化物三ツ目大ほうい」 http://id.ndl.go.jp/bib/000007313613 のタイトルが実はまったく別物であったことを明らかに。実は「妖相生の盃(ばけものあいをいのさかづき)」 http://id.ndl.go.jp/bib/000007313598 と同じものだったとのこと。しかも仮題とした登場人物は「ほうい」ではなく、「ほうつ(坊主)」だった…。まあこの崩しだと「い」と読みたくなるのは分かる(図版あり)。
○「書物の周囲」p.42
土浦市立博物館, 日野市立新選組のふるさと歴史館, 壬生町立歴史民俗資料館, 板橋区立郷土資料館 編刊『幕末動乱 : 開国から攘夷へ』(2014) http://id.ndl.go.jp/bib/025746446 が紹介されている。あれは面白い展示だった。幕末では注目されることの少ない、江戸近辺の動向に焦点を当てたところがポイント。
○「受贈書目」p.43
山口静一『三井寺に眠るフェノロサとビゲロウの物語』(宮帯出版社, 2012) http://id.ndl.go.jp/bib/023626846 はフェノロサらが三井寺に葬られるに至った経緯を追ったものとのこと。明治18年にフェノロサ、岡倉天心が巡回中の三井寺の阿闍梨桜井敬徳によって受戒し、仏教に帰依したのは、町田久成の東京小梅の別邸だった、というエピソードが紹介されていて、気になる。
木村八重子 編・中野三敏 監修『ホノルル美術館所蔵 黒本青本』(九州大学ホノルル美術館所蔵和本調査団, 2014) http://id.ndl.go.jp/bib/025884445 も目を引く。ホノルル美術館の黒本青本コレクションは、「リチャード・レイン氏が蒐集したもので、端本が目立つが他に見ない本や希少な本・零葉も多い」とのこと。
他にも色々記事はあるが、この辺で。
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