東方 2015年3月号[409号]
東方書店の『東方』2015年3月号[409号]をざっと読んだので気になった記事の感想等をメモ。
○本田善彦「世界の華人フォーラムを目指して ―『思想』編集陣と語る―」p.2-7
『思想』といっても、岩波のあれではなくて、台湾で年平均3号ペースで発行されているという思想誌、とでもいえばよいのか。歴史・哲学から時事問題までカバーするとのことで、日本だと、総合誌ということになりそうだが、今の日本の総合誌とはちょっと違う印象。書店で長期間扱ってもらうために、あえて定期刊行の雑誌という形態をとらない、というあたり、時事問題を扱うにしても、ジャーナリスティックというよりも、より深い分析を重視していることがわかる。世界の華人の「共通の知的交流の場」を目指して、書き手も台湾に限らず、大陸、香港、北米と多様とのこと。
読んでいて、日本語ではこういう、何となくみんな注目してる、的なメディアはもう難しいのだろうか(ネットを中心に色々な試みはあるけれど)、と思ってしまった。
○渡辺健哉「島田正郎が残したものと契丹国研究の現在――島田正郎著『契丹国』の新装版刊行によせて」p.8-13
島田正郎『契丹国 : 遊牧の民キタイの王朝』(東方書店, 1993)が、著者の「回想」等を付して再刊されたことを受けての紹介。特に「回想」の紹介は、戦前期の東洋史研究において、実際にそこに(比較的容易に)行ける、ということが持っていた意味を浮かび上がらせていて興味深い。なお、島田が戦前期に参加した中国東北部における遺跡調査時の資料の一部は明治大学におさめられたとのこと。
あと、本稿の著者(渡辺氏)が、関野貞、常盤大定らによる戦前期の東洋史研究について、継続的に調査されていることを初めて知った。満洲国絡みの話が出てこないかどうか、今度論文読んでみようかな。
○瀧本弘之「中国古版画散策(2) 『仏国禅師文殊指南図讃』 ―「入法界品」にあらわされた可憐な童子の求道遍歴―」p.14-17
古版画と言いつつ、挿絵入り古版本を紹介。漢籍関係者は必見かと。今回は、宋刊本と思われる『仏国禅師文殊指南図讃』(善財童子の話、と言えば分かる人は分かるか)を紹介。なお、使われている図版は、民国初期に来日していた羅振玉が見出した「宋版」(実際には宋版を元にした和刻本らしい)で、現在は大谷大学図書館が所蔵しているものとのこと。
○丸川知雄「「コワントン省」「チュー川」など、日本の地理教科書で珍妙な中国地名表記がされている由来を探求」p.33-37
明木茂夫『中国地名カタカナ表記の研究 教科書・地図帳・そして国語審議会』(東方書店 ,2014)の書評。しかし、中学・高校の地理教科書や地図帳で、中国語の地名が基本カタカナ表記に統一されていたとは知らなかった。中国史ネタの歴史ものとか場所が全然分からなくなる、ってことだよね、それ…。
本評によると、中国地名をカタカナ表記することについては、国語審議会での議論が基礎となり、昭和53年、平成6年に財団法人教科書研究センターから発行された『地名表記の手引』が決定的な影響を与えた、とのことだが、その背景が、「日本語の中の漢字使用を制限し、いずれは廃止しようとする動きの一環」とは…。このあたりは、『中国地名カタカナ表記の研究』自体を読んでみないと詳細は分からないが、漢字廃止論がこんなところに影響を与えていたとしたら、かなり根が深い問題かもしれない。
他にも記事・連載・書評があるけど、メモとしてはこんなところで。
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