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2019/10/06

五島美術館「大東急記念文庫創立70周年記念特別展示[第4部]書誌学展IIー近代そして現代へー嵯峨本、五山版の名品と古辞書」

五島美術館の「筆墨の躍動展」2019年8月31日〜10月20日と併せて開催の「大東急記念文庫創立70周年記念特別展示[第4部]書誌学展IIー近代そして現代へー嵯峨本、五山版の名品と古辞書」を見てきたのでメモ。

今回は川瀬一馬(1906-1999)の業績を大東急記念文庫所蔵資料を通じて振り返る、という趣向。

展示資料はリストを参照のこと。以下、( )内の番号は、出品目録の番号。見たのは後期なのでその点はご留意を。

冒頭は12〜13世紀書写と見られる香字抄(57)と、川瀬旧蔵の拾芥抄(58)という二つの類書から。香字抄は川瀬によると、日本人漢詩が引用されているのがポイント。また、後者の拾芥抄は川瀬の前にはフランク・ホーレーの手を経たものとのこと。

あとは、リスト順で。

幼学指南鈔(56)については、別巻の京都大学本の解説(文化遺産オンライン) 等を参照のこと。大東急記念文庫は巻六のみ所蔵で、他は各所に分蔵されている。他に伝本なしとのこと。

黄檗山断際禅師伝心法要(59)は、五山版。興味深いのは、解説では、川瀬説を弘安6年刊と紹介しつつ、校印ではないか、との考察が続くところ。単に川瀬説をそのまま紹介するだけではなく、その後の研究成果も踏まえたものになっている。

このあと、8件の五山版が続く。大蔵経綱目指要録(62)は、覆宋版で宋版も現存が確認されているとのこと。一方で、王状元集百家注分類東坡先生詩(63)は、川瀬の覆元版説が紹介されていたが、元版の紹介はなく、未確認の模様。

首楞厳義疏注経(64)は五山版の一種、高師直版。末尾にある跋文は本文とは別の手による字を元にした版となっているが、川瀬はこれを高師直の手によるとしているとのこと。なお、巻頭の大きな付箋には赤字で、帝国図書館、書陵部にも所蔵があることなどが記されていたが、誰が書き込んだのかは解説がなかった。蔵書印は蔵書印データベースで「稲田福堂図書」印の解説中に、別種印「江風山月荘」として紹介されているものと思われる角印あり。稲田福堂(政吉)の蔵書印だとすれば、稲田は、和田維四郎(大東急記念文庫の収書に中心的役割を果たした)に蔵書を売却したとされていることから、つじつまはあう。

五灯会元(65)は元版の覆刻した建仁寺版をさらに覆刻したものとのこと。

仏果圜悟禅師碧巌録(68)も五山版の一種、美濃版。美濃版は、余白が非常に大きく取られているのが特徴とのこと。展示本は、その余白にびっしりと書込みがなされていた。

標題徐状元補注蒙求(69)は小瀬甫庵が刊行した初期の古活字版(文禄5年)。

新刊錦繍段(70)も慶長2年刊の古活字版。刊語には、朝鮮活字の伝来など刊行の経緯についての記載ありとのこと。

新刊吾妻鏡(72)は伏見版、帝鑑図説(73)は秀頼版、群書治要(76)は駿河版と、古活字版の要所もきっちり押される。なお、群書治要には、稲田福堂(政吉)の「江風山月荘」印と、新見正路(1791-1848)の蔵書印「賜蘆文庫」も見えた。

嵯峨本も色々出ていて、伊勢物語聞書(肖聞抄)(80)は川瀬の分類で第二種本、つれづれ草(82)は第一種本、といった解説もあり。特に新古今集抄月詠和歌巻は大型の巻子本。製版とのことだが、雲母摺の料紙に大ぶりの文字が美しい。なお、巻子形態での現存は大東急記念文庫本のみとのこと。

会場では、川瀬の代表的な業績・著作や、書誌学用語を解説したリーフレットも配布されていて、川瀬説の検証自体、まだまだ残された課題があることが示されていたことを含めて、川瀬没後20年ならではの展示なのではないかと。

なお、本体の「筆墨の躍動展」の方では、書誌学展IIで展示されていた、蘭渓和尚語録(60)に対応するように蘭渓道隆墨跡「風蘭」偈(4)が展示されていたり、楊守敬による鄰蘇園法帖など、拓本や法帖の名品が参考展示されていたのが印象的。また、画学斎過眼図藁(19)は谷文晁のスケッチ帖で、亜欧堂田善の顔のスケッチがあったり、集古十種と共通する古物も描かれているとのことで、近世における文化財調査という観点でも面白そうだった。

近代の水墨、書の作品も色々あり。特に第一次インドシナ戦争を題材にした詩を書にしたという大澤竹胎(1902-1955)のアラゴン平和の歌(36)が印象に残った。

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