『図書館雑誌』2021年9月号 特集「地域資料のいまとこれから」
『図書館雑誌』2021年9月号(vol.115 no.9)が届いた。特集は「地域資料のいまとこれから」。
とにかく、福島幸宏「地域資料の可能性」(p.568-571)は必見。著者のこれまでの図書館再定義論に関する文献と、関連する他の論者による主要文献に言及した、自身によるレビュー論文とでもいうべき論考で、ここを起点に、注記にある各文献にアクセスすることができる。今後、議論を深めるための起点を提供する一本。地域における社会運動や、ボーンデジタル情報への目配りも。それにしても、この論考が図書館雑誌の特集冒頭を飾る時が来た、ということ自体が事件かもしれない。
特集では、取り組み事例として、青森県立図書館デジタルアーカイブ、とっとりデジタルコレクションといったデジタルアーカイブや、丹波篠山市の地域資料整理サポーターの活動、埼玉県立小川高等学校を中心とした「おがわ学」における町立図書館の貢献、福岡アジア都市研究所のコレクションの紹介が、当事者である各論者により執筆されている。デジタルアーカイブ以外の事例においても、デジタル化やオンラインへの対応に関する記載がある点も注目だろう。敢えていえば、後は大学と地域との関係についての論考があれば…、というところだろうか。
特集最後の是住久美子「図書館はオープンガバメントに貢献できるか」(p.583-585)は、2018年3月に慶応義塾大学において開催された公開ワークショップ「図書館はオープンガバメントに貢献できるか?」での議論を起点に、地域資料や行政資料のオープンデータ化に図書館が果たすべき役割と、その効果について論じている。特に公共図書館に「市民の参画や行政と市民との協働」という視点を導入しようする点が重要、という気がする。
特集をざっと通読して、地域や地域資料が、なぜ重要なのか、という点についての検討が物足りない感じがして、そこが少し気になった。図書館が大手カフェチェーンと組み合わさることで、その地域とはある種独立した、都会的な空間の提供場所として評価されることが少なくない状況において、なぜ地域が重要なのか、ということについては、改めて問い直しておく必要があるような気がする。また、地域は、さまざまな社会・経済関係の基盤であると同時に、さまざまな社会的・人間関係的制約により個人を縛るものでもある。地域の公共図書館が、結果的に地域に住む人たちを地域のさまざまな制約の中に縛りつけるための仕組みとして機能する可能性について、もう少し敏感になった方がよいのかもしれない。先に触れた是住氏の論考では、地域を開いていくための地域資料の可能性も論じられているのだけれど、それに加えて、地域を変えていくための地域資料の可能性も、考えていく必要があるのかも。難しいとも思いつつ。
何にしても、福島氏の論考によると、蛭田廣一『地域資料サービスの実践』日本図書館協会, 2019.(JLA図書館実践シリーズ41)が出発点になるので読んどけ、ということのようなので、読まねば。
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