ライブラリー・リソース・ガイド(LRG)36号(2021年夏号)特集 戦争の記憶と記録
ライブラリー・リソース・ガイド(LRG)の36号を、電子版で一通り読了したので感想をメモ。
特集「戦争の記憶と記録」については、「大事なことはわかりやすい節目を待つ必要はありません」という、岡本真氏の巻頭言の一言は確かにそのとおりかと。全体として、1945年以前の戦争の経験者が現実にいなくなっていく、という状況下で、かつ戦争を知らない若い世代を拒絶しない形の戦争体験の継承がどのように可能か、という論点と、図書館等による戦争資料の収集と、組織化を通じた戦争資料を見える化していく取組みをどのように行なっていくことができるのか、という論点が絡み合う形で議論されている、という印象。
それと、水島久光「付記 デジタルアーカイブ化に向けた「レベル」別支援」(p.82-83)における、
「ある物品や文書資料を、「戦争」に関連づけて拾い上げる行為がなされて初めて、それらは「戦争関連資料」として認識されるのであり、その点において「目録」づくりは、行為遂行的(performative)なアクションであるということができる。」
という指摘は、戦争関連の資料に限らず、いわゆる主題書誌、専門書誌、参考書誌とは何なのか、ということを考える際に、重要なのではないだろうか。
また、正面からはあまり論じられていないが、歴史修正主義者の活躍が、出版においても猖獗を極める状況下において、いかに戦争資料を収集し、提示していくのか、という問題も背景にはあるように思う。歴史修正主義者(正確には修正ではなく、改変・捏造と言うべきだろうが…)に対して、地道に抵抗していくためにも、戦争資料の蓄積と組織化、そしてそれに基づく提供と共有は不可欠だろうが、だからこそ、攻撃対象となるリスクも伴う。また、特にサブカルチャーやSNSで歴史修正主義的な見方を先に身に付けてしまった人たちに対して、どのように蓄積された資料を提示していくのかは難しい課題だろう。間口を広くしつつ、資料への向合い方について、どのようにして考え直す契機を作り出すのか、という問いも絡んできそう。
こうした難しさに対峙していくためには、組織・機関を越えた横のつながりが必要で、その意味でも、現状をレポートし、課題を整理したこの特集の意味は大きいと思う。「展示」や「目録」という既存の手法をどのようにデジタル環境に組み込んでいくのかという面でも意欲的な議論が展開されているところもありがたい(例えば、椋本輔・上松大輝「戦争関連資料をつなぐメタデータ共有システムの構想」(p.84-93))。
あえていえば、日本社会が直接、間接に関わった1945年以降の戦争についても、ここで議論されているような方法で対応できるのかどうかが気になるところではあり。ただ、そのあたりは、責任編集者でもある水島久光氏の『戦争をいかに語り継ぐか 「映像」と「証言」から考える戦後史』NHK出版,2020.(NHKブックス No.1263)をまずは読んでから考えるべきなのだろう。
連載では、奈良県立図書情報館の乾聡一郎氏のインタビュー(「司書名鑑nol.31」)におけるイベントに対する考え方(「続けることが目的になるようなことがあったら、そのイベントの使命は終わったという考え」)が印象に残った。
また、猪谷千香氏による現代マンガ図書館の蔵書も集約された米沢嘉博記念図書館についてのレポート(「猪谷千香の図書館エスのグラフィーvol.17」)では、複写サービスを行なっているところに注目していて、言われてみると、確かにそれは、なぜ「図書館」なのか、という点で、重要であることに気付かされた。
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