『日本古書通信』2021年10月号(86巻10号)
『日本古書通信』2021年10月号(86巻10号)を読んだのでざっくり気になった記事についてメモ。
- 塩村耕「足代弘訓『学問答書』のこと」p.2-4
まだまだ出てくる岩瀬文庫の未整理資料。今回は、伊勢外宮の神職で国学者でもあったという、足代弘訓(ひろのり・1784-1856)が文政9年(1826)に著した学問論に関する小冊子について。特に、当時の国学者についての悪しき風評を伝える部分が興味深く、事実かどうかはともかく、国学者を山師的な存在として叩く人たちがいた、というのが面白かった。
- 中澤伸弘「二題 撰集『雨夜の友』について/古書と教師とその行方」p.4-6
後半では、北野克『墨林閑歩』研文社,1992.について、小出昌洋氏の編によること、北野翁が都立千歳高校の定時制教員であることなどに触れ、昭和の都立高校で、校長も他の教員も古書に理解があったことを紹介しつつ、自身の教員生活を振り返ってどうであったかを語っている。
昔は良かった的な印象を受ける話もあるものの、「教員は研究と研修が大切であると奉職早々に先輩教員から諭され、研修日もあつた都立高校が懐かしい」という指摘は、現在の教員が置かれている状況を表していて、切ない。
- 川島幸希「近代作家の資料4 夏目漱石の森田草平宛献呈本」p.8-10
これは詳細は読んでもらうほかないと思うが、ネットオークションで示された断片的な情報から、これを見いだす眼力がすごい、としか言い様がない。それだけ常に資料をきっちり見て分析している、ということでもあるかと。その種明かしをこれだけオープンにしてくれる、というのがまたすごい。
- 田坂憲二「雑誌『エトアール』のこと—吉井勇周遊—」p.10-12
プランゲ文庫のマイクロ資料に含まれている雑誌『エトアール』について、著者所蔵の現物から詳細を紹介したもの。実はこの雑誌、第一工業製薬と深いかかわりがあることが論じられており、戦後初期の京都文化人と地元企業との関係、という面からも興味深い。
- 森登「銅・石版画万華鏡170 明治の小型洋装本」p.13
明治期の小型英和辞書を中心に、その装丁と、組み版の工夫について紹介している。小さな版面に小型の活字で情報をいかに圧縮して詰め込むか、という活版におけるレイアウト技術の話でもあり。
- 蓜島亙「『露西亜評論』の時代(50) 一九一七年革命前後のロシア観」p.14-15
特に終盤の、既刊の雑誌の売れ残りを合冊して合本として販売する習慣が、明治期から大正12年前後まで多くあり、時にタイトルも変えて売られていた、という話や、さらにいくつかの雑誌の抜粋を簡易表紙をつけて書籍として販売した、という話が面白かった。刷ったものは再利用してたんだなあ…
- 川口敦子「パスポートと入館証、準備よし!34」p.30-31
各国の図書館、文書館での調査時の経験を語る連載。今回からスペイン国立図書館の話に。2012年から2014年まで、毎年ルールが細かく変わっていた、という話が興味深い。また、持ち込むことができるものの制限がどんどん厳しくなっていった、という話も。
- 小田光雄「古本屋散策235 高橋正衛と『現代史資料』」p.33
みすず書房の『現代史資料』についての話。現代史資料の右翼関連担当だったという、高橋正衛について。松本清張への情報提供者でもあった、という話も。1974年第40回配本(『国家主義運動3』)の『現代史資料月報』掲載の、伊藤隆氏の言葉が紹介されている。
- 八木正自「Bibliotheca Japonica CCLXXXVI 『蘭科内外三法方典』と橋本宗吉について」p.38
大阪蘭学の祖と呼ばれる橋本宗吉(1763-1836)とその著作の紹介。
橋本宗吉については、関西・大阪21世紀協会「なにわ大坂をつくった100人」でも紹介されているので、そちらも併せて。
- 青木正美「古本屋控え帳424 鹿島茂氏と私」p.39
出会いそうで出会わない、著者と、書評の書き手の話。「もはやお会いする機会はないであろう」という言葉が、良い意味で裏切れらることを祈るばかり。
- 「書物の周囲 特殊文献の紹介」
紹介されていた、次の資料が気になった。
小澤健志 編『江戸時代輸入蘭医書要覧』青史出版, 2020. https://id.ndl.go.jp/bib/030796315
富山県「立山博物館」編『かがやく天産物 : 時代を越える立山ブランドを求めて… : 富山県「立山博物館」令和元年度後期特別企画展』富山県「立山博物館」, 2019. https://id.ndl.go.jp/bib/030063083 ※前田利保など越中の本草・物産学について大きく取り上げている模様。
- 「談話室」
いわゆる編集後記。古通で何度か拝読していた、川和孝氏の訃報をここで知った。日本の秀作一幕劇百本の上演をライフワークにされていて、2020年4月14日~19日に予定されていながら、上演中止になったシアターΧ『鰤』『貧乏神物語』で百本達成予定だったとのこと。新型コロナで失われたものの大きさを思う。
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