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2021/12/11

チャルカ『アジ紙』アノニマ・スタジオ, 2009

先日、たまたま府中市美術館のミュージアムショップで購入した、チャルカ『アジ紙』アノニマ・スタジオ, 2009.がとても良い本だった。

チャルカというのは、現在も大阪で営業中の「東欧雑貨・手芸の店」のことだろう。そして「アジ紙」というのは、「味わいのある紙」(アジテーションのアジではない)のこと。例えば、均一な大量生産品とはちょっと違う、不均一でばらつきのある紙や、そうした紙が使われたアイテムたちをまとめて本書ではそう呼んでいる。文房具類は当然のこと、チケットや紙ナプキン、ちょっとした包み紙、レシートなども対象に入ってくる。

まず、本書前半では、チャルカのスタッフが東欧で出会ったアジ紙や、アジ紙を送り出した生産者側の人々が紹介されている。2009年に刊行された本なのだけど、この時点で既に東欧でもアジ紙は次々と失われつつあることが語られていて、それから10年以上たった現在、いったいどうなっているのだろう、と遠い目になってしまう。プラハ郊外で製本工房を営むヤナタ氏は今もご健在なんだろうか。

考えてみると、工業製品としての効率性と品質の追求が極まった結果、人が作っているが故の味わいが失われていく中で、そうした手工業的な味わいが残されていた瞬間が、奇跡的に記録されている一冊、ともいえるかもしれない。職人の手仕事による製品への注目、という点で、「民芸」的な観点とも接点がありそう。

本書後半では、チャルカが当時販売していた、紙製品のオリジナルアイテムの紹介と、その製作を発注している、各業者・町工場の人々の横顔が紹介されている。職人気質の方々によって、独自の製品が可能になっていたことがよく分かる。その中で、紙問屋の方が、かつてあった様々な紙のバリエーションが次々と廃番になっていることを語っていたのが印象に残った。もしかすると、凝った作りで様々な紙を駆使して作られた同人誌は、日本の製紙産業史的にも今後貴重な記録になるかもしれない、などと思ったり。

ちなみに、本書は初版のみ「春日製紙さんの更紙を使用した特別仕様」とのこと(再版されたかどうかは分からないけれど)。様々な紙を駆使した凝った作りで、本書自体、とても「アジ」がある。写真も素晴らしい。こういう本に、新刊としてばったり出会えたりするので、美術館・博物館のミュージアムショップは油断できないんだよなあ……

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