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2022/01/15

『日本古書通信』2021年12月号(86巻12号)・2022年1月号(87巻1号)

ためこんでしまっていた、『日本古書通信』2021年12月号(86巻12号)と、2022年1月号(87巻1号)の感想をまとめて。

まずは、2021年12月号から。

特に巻頭の、塩村耕「虫だらけの伊東玄朴書簡—コレラと闘う蘭医」(p.2-3)が重要かと。著者が入手した伊東玄朴から大槻俊斎宛の書簡を解読しつつ、その背景を含めて解き明かしていくもので、断片的に現れる情報と知られている史実を組み合わせつつ、時期や状況を推定していく。末尾では、デジタル化の重要性と効果について言及されていて、書簡資料のネット公開を推奨している。また、早稲田大学図書館や東京都立中央図書館の取り組みを評価しつつ「今や、先人のかつて経験することができなかった夢のような研究基盤」が実現しつつあり、「人文学の質を書き換えるほどの事態をもたらす可能性がある」と指摘し、「書簡文化研究の機運」の再来への期待も述べられている。原資料の面白さと、それを読み解くためのツールとしてのデジタル化資料の重要性の両面が語られていて、重要な記事かと。

田坂憲二「『短歌風土記山城の巻(一)』漫歩—城南吉井勇紀行」(p.4-6)は、歌人・劇作家の吉井勇が、戦後まもなく、京都府八幡市に住んでいた時代の短歌集『短歌風土記山城の巻(一)』をひも解きつつ、関連の文献も紹介しつつ、京阪電車八幡市周辺のゆかりの地をめぐる一本。当時の文化人たちとの交流も興味深いが、現地の和菓子が何ともおいしそう。

加藤詔士「明治16年度『工部大学校学課並諸規則』」(p.14-15)は、後に帝国大学工学部となる工部大学校の教職員、学課目の編成、諸規則をまとめ、ほぼ毎年刊行されたと見られる『工部大学校学課並諸規則』の英語版を含む現存諸本の概要を整理しつつ、著者が入手した明治16年度版について、他の諸本との異同などの分析が行われている。基本資料の紹介として重要だと思われるが、伝存がこれほど少ないとはちょっと驚き。

福田博「和書蒐集夢幻譚 117 左右にブレる出版人成史書院關根喜太郎」(p.20-21)は、宮澤賢治『春と修羅』を発行し、販路を提供した關根書店の代表、關根喜太郎が、後に立ち上げた出版社、成史書院で昭和14年に刊行した『紙 資源愛読本』を取り上げたもの。実は關根自身が執筆・刊行した奇妙な本で、特に一部が引用されている、紙を種類別に解説した文言中の詩のような部分が何ともいえない味わい。

小田光雄「古本屋散策(237) 山辺健太郎と『現代史資料』」(p.22)は、前号(感想)に続き、『現代史資料』について。今回は『社会主義運動』7冊、『台湾』2冊の編集解説者であった山辺健太郎について、「独学者ならではの図書館と文書館(アーカイブ)の徹底的利用」によるその仕事が紹介されている。特に、国立国会図書館の憲政資料室には開設直後の1950年当初から1968年にかけて、毎日のように通っていたことが紹介されている。「憲政資料室の牢名主」と自称していたとは。図書館・アーカイブズによる蓄積と、そこに蓄積された資料を活用した出版の一事例でもあり。

川口敦子「パスポートと入館証、準備よし!(36)」(p.24-25)は、2016年のマドリードのスペイン国立図書館とも近い公園で開催された、マドリード秋の古書市(Feria de Otoño del Libro Viejo y Antiguo de Madrid)の様子を紹介。こういう記事が読めるのも、古通ならでは。

森登「『浦上玉堂関係叢書』刊行について」(p.28-29)は、浦上家史編纂委員会が刊行した『浦上玉堂関係叢書』全3巻4冊編纂の裏話的一本。特に第3巻に当たる『浦上玉堂父子の藝術』における、琴譜からの全曲録音(CD付き)の話や、様々な呼称を網羅したという人名索引作成の苦労話が興味深い。

巻末の編集後記的コラム「談話室」(p.47)では、天理図書館開館91執念記念「書物の歴史」展や、深井人詩氏追悼文集に言及されている。

続いて2022年1月号について。なんと、一部ページの図版がカラーになり、紙質も変わった。

早速、川島幸希「外装の下 泉鏡花の極美本」(p.2-3)では、著者所蔵の美本の図版を掲載。「現物の色とはかなり違う」とのことだが、保存状態の良さはうかがうことができる。

森登「銅・石版画万華鏡 172 正月の引き札」(p.7)もカラー図版。これは確かにカラーがありがたい。当時皇太子妃だった九条節子(後の大正天皇皇后)が描かれた引札を取り上げている。多色石版と空押しの組み合わせとかあるんだ、という感じ。また、岩切信一郎氏が監修されたという『引札 資料集』(海の見える杜美術館,2021)の紹介もあって、「引札の資料集としては出色の図録」とのこと。

竹居明男「「七福神」と「宝船」に関する文献抄—架蔵の稀覯資料から—」(p.10-11)は、七福神、宝船についての図録や解説書の紹介。これでもおそらくコレクションの一部なのだと思われるが、こんなにあるのか、という感じ。特に宝船コレクターによる図録が複数あり、「明らかに大正と昭和一桁代にピークがあった」宝船ブームがあり、「その中心は京都・大阪・名古屋にあったように思われる」という分析が興味深い。

松竹京子「文筆家としての小早川秋聲」(p.14-15)は、小早川秋聲が美術雑誌に寄稿した大量の文章について、その一端を紹介したもの。「日本画家小早川秋聲の御長女山内和子先生から父秋聲について」話を聞く機会があったことが、秋聲の文章を追い始めた契機とのこと。

茅原健「珈琲店—獏さんの思い出」(p.15)は、沖縄出身の詩人、山之口獏氏の思い出を綴った囲みコラムだが、1950年代の池袋北口の喫茶店についての話でもあり。

小田光雄「古本屋散策(238) 姜徳相と『現代史資料』」(p.22)は引き続き、みすず書房の『現代史資料』について。今回は、1963年の『関東大震災と朝鮮人』と、その月報掲載の山辺健太郎「震災と日本の労働運動—朝鮮人問題と関連して」が取り上げられている。また、同巻の編者である姜徳相の『関東大震災』中央公論社,1975.(中公新書)も参照しつつ、朝鮮人虐殺事件の背景が論じられている。1960年代、70年代の蓄積がいかに現在忘れ去られているか、ということを痛感させられる話でもあり。それにしても、三一書房・三一新書の三一って、三・一運動が由来だったのか……知らなかった(これはちょっと恥ずかしいかも……)。

巻末の「談話室」では、古書業界の店舗から目録販売、そしてネットへという流れから、再び店舗志向の若手古本屋の動向に触れつつ「更にネット外の世界に活路を見いだそうとしているのが現在かもしれない」という示唆があり。また「蔵書を持つことがステイタスでなくなってしまった社会の中の古本屋」がどうなっていくのか、その問いかけも重い。

(2022-01-16 誤字を一ヶ所修正しました。「室」→「質」)

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2022/01/09

『ZENBI:全国美術館会議機関誌/全美フォーラム』Vol.18(2020年9月)、Vol.19(2021年3月)、Vol.20(2021年9月)

昨年末に行った、東京国立近代美術館のミュージアムショップで、『ZENBI:全国美術館会議機関誌/全美フォーラム』のVol.18(2020年9月)、Vol.19(2021年3月)、Vol.20(2021年9月)を入手。久しぶりに読んだ。

ちなみに、次の通り、全部PDFで公開されているので、無理に買わなくても読めるのだけど、東近美に行くとつい買ってしまうのだった。

3号まとめて読むと、あいちトリエンナーレから新型コロナウイルス、という危機また危機、という展開に、全国美術館会議の一般社団法人化も重なって、色々な意味で貴重な記録になっている。

まずVol.18(2020年9月)から。一般社団法人としての定款が掲載されているのも目を引くが、各地域ブロックごとの報告に、2020年初頭の時点ではあるが、既に新型コロナウイルス感染症が影を落としている。なお、新型コロナ以外にも、橋本優子「ポスト東日本大震災、新型コロナ・ウイルス感染症時代の情報デザイン」(p.12-13)では、川崎市市民ミュージアムの台風19号被害について、報道量が少なく、把握されていた重要な情報が普及しなかった、との指摘もなされていて重要かと。

中井康之「「パンデミック・シティ」と美術館」(p.10-11)は、国立国際美術館の「インポッシブル・アーキテクチャー」展に併せて開催された、磯崎新氏と浅田彰氏の対談の実現経緯と内容のレポートになっている。磯崎新氏の「都市設計の最大のテーマは、ユートピアを作り上げることではなく、パンデミックのような事態をどのようにコントロールするか、という問題でもある」といった発言など、その後の事態を予見するかのような議論が紹介されており、貴重かと。artscapeに掲載された、中井康之「パンデミックと……、建築と……、」(キュレーターズノート)と併せてぜひ。

また、毛利直子「アートによる地域創生いろいろ」(p.24-25)で紹介されている、高松市美術館の2019年度第3期常設展「美術館今昔ものがたり」の話は興味深い。市民による美術館建設運動で誕生した戦後第一号の公立美術館だったとは知らなかった。

紙版では縦書きで反対側から読む「全美フォーラム」サイドでは、山梨俊夫「あいちトリエンナーレ2019の電凸対策に学ぶ」(p.F2-F5)が必読。段階的に強化されていった、電凸対策の要点が簡潔に整理されており、炎上時の危機対策にとって、どの公共機関も参考になるかと。村田眞宏「川崎市市民ミュージアムの被災と救援活動(報告)」(p.F6-F10)も記録として重要。

Vol.19(2021年3月)になると、各地域からのブロック報告はコロナ一色となる。危機に対する様々な取り組みが紹介されているが、個別の報告というよりは、全体として重要な記録となる性質のものかもしれない。その中で、林田龍太「コロナと水害、美術館と展覧会」(p.20-21)では、熊本の水害被害における文化財レスキューについて言及されており、「県内各館が過去に行った悉皆調査と、それに基づいて開会した展覧会及びカタログ」が「一役買った」ことが紹介されているのが目を引く。地道な地域の文化財に関する調査研究に、災害時の「「備え」としての意味」があることが指摘されているのがポイントだろう。

「全美フォーラム」サイドも新型コロナ一色だが、木村絵理子「「横浜トリエンナーレ2020:AFTERGLOW―光の破片をつかまえる」(p.F11-F15)では、東京オリンピックの影響を考慮した備えが、結果的に円滑な開催準備につながったことが報告されていて、何がどうプラスに働くは予測できないなあ、としみじみ。他の報告もそうだが、危機の中で開催にこぎ着けた展覧会では、アーティストなど関係者との信頼関係が重要、ということが改めて確認されている。

Vol.20(2021年9月)では、新型コロナ後を見越した議論が始まっている印象。井関悠「「美連協」後の展覧会を考える―コロナ禍を乗り越えるために」(p.6-7)は、2020年4月の美術館連絡協議会からの通知を踏まえて、美連協の事務局業務停止の影響を論じている。Web版美術手帖の関連記事「美術館連絡協議会が事務局業務の停止を発表。コロナで活動見直しへ」と併せて読んでおきたい。また、村上敬「コロナ禍をチャンスとした館内人材の多様化を望む」(p.12-13)は、実は「富野由悠季の世界」展の静岡展に関するレポートになっているのでご注意。

「全美フォーラム」サイドでは、大野正勝「川崎市市民ミュージアムの被災直後の状況と対応」(p.F6-F9)が、タイトル通り、被災直後の対応について、コンパクトにまとめられていてあらためて当時の状況を把握するには有用かと。「当館は指定管理者制度による管理運営のため人的及び物的な手配を比較的早く進められた」(p.F9)と付記されているが、ここはもっと詳しく読みたいところではあり。

青木加苗「博物館法は誰のものか」(p.F10-13)は、博物館法改正の動きが本格化する状況において、美術館関係者に、議論への積極的参入を呼びかけている。また、全美における2000年前後に行われた博物館法に関する議論(結果的に「美術館の原則と美術館関係者の行動指針」につながっていったとのこと)を紹介していて、美術館界隈ではそういう議論があったのか、と勉強になった。

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2022/01/01

東京国立近代美術館「柳宗悦没後60年記念展 民藝の100年」展(会期:2021年10月26日-2022年2月13日)

年末に、東京国立近代美術館の「柳宗悦没後60年記念展 民藝の100年」展(会期:2021年10月26日-2022年2月13日)を見てきたので、今年最初の更新はその感想を。

とにかく情報量がすごかった。中心人物であった柳宗悦を軸にしつつも、民藝運動に関わる様々な人物にも目配りしつつ、多数の収集品や新作(当時の)とともに、展示や出版、あるいは店舗やファッションまで含めた様々なメディアを戦略的に活用した運動としての民藝の姿が多面的に展示として展開されていて、圧巻だった。そしてそうした多面的展開は意図的に構成されたものであることが、図録に整理されている10の主題からも分かる。詳細は図録を入手して確認してほしいが、キーワードを参考に抜き出しておこう。

  1. 発見と収集
  2. 異文化との出会い
  3. 都市と地方
  4. 手仕事と産業、ギルド
  5. 観光・交通
  6. 建築から景観まで
  7. 展示する
  8. ネットワークをつくる
  9. 売る/買う
  10. 「日本」を見せる——ローカル/ナショナル/インターナショナル

こうした主題が、時間の経過(それは時代状況の変化でもあり、民藝運動が取り込んでいく対象の広がりでもある)と絡みつつ、展開されている。おそらく、それぞれの関心の持ちように応じて、最も印象に残る部分は変わってくるのではなかろうか。

個人的に印象に残ったのは、戦中期までの民藝運動が、植民地政策への批判的視座を内包しつつも、帝国としての日本のあり方と密接に関連しているところ。民芸運動の出発点としての、朝鮮工芸・陶磁器と柳宗悦の出会いと、浅川伯教・巧兄弟との関連がきっちり踏まえられていて、お、これは期待できる、と思っていたら、1912年の拓殖博覧会に興奮する富本憲吉とバーナード・リーチという話がぶっ込まれてきた上に、中国、沖縄、アイヌ、台湾にも目配りが来ていて、大満足。さらに、1941年の巨大な「日本民藝地図」(芹沢銈介)では、沖縄は「日本」の固有の姿を保っていると「日本」に加えられているが、朝鮮やアイヌは「日本」の外側にある、という認識が裏返しの形ではあるが示されていて、戦時期民藝運動における「日本」の輪郭がうかがえて、興味深かった。(ある意味で「内地」の日本人のまなざしの典型だったのではないか、という気もするがどうなのだろう。)

また、「官」への批判的視点がしばしば取り上げられる柳宗悦や民藝運動だが、実際には官僚の支持者によって多くの便宜が図られていたり、積雪地方農村経済研究所(施設の一部や資料は、現在、雪の里情報館に引き継がれているとのこと。)との連携など、官とのつながりも結構あったことも紹介されている。また、図録に収録されている論文では、官との対立に関するエピソードとしてやや神話化されている、1929年に資料の寄贈を、東京帝室博物館に断られた話を検証している(花井久穂「民藝の「近代」——ミュージアム・出版・生産から流通まで」p.218-227.特にp.223-224.)。専用の展示室の確保、展示への自分たちの関与、その後の収集資金までセットで話を持ち込んでいて、これはハードルが高いので断られるのもしょうがないのでは、というか、この時点では、国おかかえで活動することも選択肢として考えられていた、というのも興味深い。戦中の対外プロパガンダにも、戦後の国際文化交流にも積極的に関与していく姿勢は、ある意味で一貫しており、単なる「在野」とはいえない多面的な性格も柳宗悦や民藝運動の面白さだろう。

ちなみに、図録の解説付き文献リスト「MOMATアートライブラリーによる「民藝文献案内」」(p.228-244)は今後、研究テーマとして、民藝を考えている方々にとって、出発点となる労作かと。次の13の論点ごとに整理されていて、民藝をテーマにレポートや卒論・修論を書くという人はここからスタートできてお得。学生を指導される先生方も活用されるとよいかも。特に2000年代以降の比較的近年の研究が幅広くカバーされている印象。

  1. 民藝に関する基礎文献
  2. 民藝と民家研究
  3. 民藝/民俗学/民具/郷土玩具
  4. 古陶磁発掘ブームと東アジアの陶磁史
  5. 民藝と観光
  6. 民藝と産業
  7. 民藝と展示
  8. 民藝と挿絵と写真家
  9. 民藝と社会思想
  10. 民藝と帝国日本
  11. 民藝と国際交流:戦前から戦後
  12. 衣食住に広がる民藝
  13. 民藝とデザイン
  14. 戦後の民藝の変容

特設のショップでは、福田里香『民芸お菓子』ディスカバー・ジャパン,2018.を入手。民藝関係者がパッケージやお菓子そのもののデザインにかかわった、各地のロングセラーお菓子(和菓子中心だが、洋菓子もあり)を紹介したもの。戦後の民藝が、いわゆる「民芸品」という言葉に代表されるように土産物として大衆化していった過程を示している一冊ともいえるかも。あと、ショップの入手しやすい価格のアイテムは、ほぼ芹沢銈介一強、みたいな品揃えになっていて、ライセンス戦略も含めて色々あるのだろうとも思うのだけど、これはどういうことなのだろう、と考えさせられた。

そういえば、鳥取を中心に活躍した吉田璋也に関する展示で見られたような、民藝における、生活の中に取り入れる製品群とライフスタイルを組み合わせて提案する手法を、現在最もうまくマーケティングの方法として継承しているのは無印良品かもしれないな、などと後から思ったり。そう思って検索したら、無印良品と日本民芸館による民藝展(「民藝 MINGEI 生活美のかたち展」)が開催されていたことを知る(1月30日まで博多で開催中だけど見に行くのは厳しい…)。見に行っておけば比較できたのにと、ちょっと残念だったかも。

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