ウィリアム・モリス,エメリー・ウォーカー著・はやみずあゆみ訳『書物印刷概論』万象堂, 2021.
ウィリアム・モリス,エメリー・ウォーカー著・はやみずあゆみ訳『書物印刷概論』万象堂, 2021.を読了。といっても短いけど…
万象堂さんは、美術・音楽系の出版社で、最近、電子書籍のみで、ウィリアム・モリスの著作の翻訳を立て続けに出している。その中の一冊。ここでは、ウィリアム・モリス(William Morris)が、その書物印刷・タイポグラフィ面での協力者であり、書物コレクターでもあったエメリー・ウォーカー(Emery Walker)とともに、当時(19世紀後半)の書物の堕落ぶり難じつつ、活版印刷以降の西洋の書物史をたどりながら、美しい書物とはいかなるものかを論じている。
アメリカで出版された書物の低評価っぷりがすごかったり、インキュナブラだからといって何でも評価するわけではなく、結構、評価の高低があったりするのが興味深い。また、モリスたちの評価を絶対視するのは実は微妙で、特に書体に顕著だが、モリスたちの評価がめちゃ低い書体が、現在も結構人気があったりするのもまた面白い。
そうした現代の状況を注で丁寧に補っているのも本書の特徴で、単なる翻訳で終わらない編集ぶりがありがたい。参考として示されているのがネット情報ばかりではあるのだけど、例えば、日本語であれば国立国会図書館の電子展示会「インキュナブラ 西洋印刷術の黎明」だったり、その他、英語の情報源(例えば、A Dictionary of the Art of Printingなど)を色々組み合わせると、こうした解説が書ける環境ができてきている、ということでもあるかと。電子書籍による、古典的テキストの翻訳復刊の事例としても要注目では。
また、内容的にも、こうした書物印刷における議論の蓄積を電子書籍の時代にどう活かしていくのかという観点や、電子書籍ビューアにおける美しい「版面」とは何か、ということを考えるヒントになるかもしれない。読みながら、電子書籍ビューアで、フォントもそうだけど、レンダリングエンジンも(出版社側が指定したり、読者側が選んだりと)選択できるような未来が来ると面白いのに、などと思ったりしていた。
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